久しぶりに再会した親友チリと友情以上の何かが始まる予感がする。 ※ワーパレお借りしました→@torinawx ※指定ワードの一部を世界観に合わせて変えてます(洋楽→音楽)
「あっ、これ自分の好きなバンドの曲やん。文化祭でナルシの先輩に歌われてガチギレしとったやつ、せやんなあ?」 店内に流れてきた懐かしい音楽にチリが反応する。私もチリよりも先に、何ならイントロで即座に気付いていた。でもあれから一体何年経ったと思ってるんだ。なのにチリの昔話は終わりそうにない。 「ええやん。せっかく久々に会うたんやから昔話の一つや二つしたって構へんやろ?」 珊瑚色の垂れ目をじいっと私に向けて、「こんな話、自分としか出来へんのやから、なぁ?」あざとく首を傾げる。まったく、もう。チリの、昔からの癖だった。 本当にたまたま、学生時代よく使ったファストフード店の前でチリに会った。 チリとは卒業してすぐの頃は頻繁に連絡を取り合っていたものの、今では年に一度あればいい程になっていて、直接会うなんて数年ぶりだった。 だから私もチリも偶然の、それも放課後よく通った店の前での再会に、妙に興奮してあの頃のようにきゃあきゃあと喜んだ。数分後、元々の予定なんて関係ないやと奥の席を選び、昔のようにポテトとナゲットをトレイに広げていた。 久しぶりの再会だから話す事はいくらでもあった。まずはチリが近況を話す。パルデアリーグの四天王として忙しくも充実した日々を送っているとの事だ。「ほれ見てみぃ」と自慢げに披露するグローブは使い込まれてチリの手によく馴染んでいる。 じゃあ私の番、と話すけれど、チリはポテトを食べながら「ふーん」「へえ……」と適当な相槌を打つばかり。ちゃんと人の話も聞け、と怒ろうとしたら「そんな事よりちょっとええ?」チリはナゲットをケチャップソースに突っ込んで目尻をギュンッと吊り上げた。 「指輪、しとらんやん」 チリの人差し指が私の右手を指す。数年前、最後に会った時は薬指に指輪をしていたのだけど、チリはそれを覚えていたらしい。私は驚きつつ、「別れたら外すでしょ」もう随分昔の事になった別れを思い出しながらも落ち着いた声で答えた。 「卒業式で告白して泣いて喜んどったのに」 「でも別れる時は別れるよ」 「見掛ける度にギャアギャアうるさして、さんざんチリちゃんを振り回しとったのに?」 「私だってチリにどんだけ振り回されたか。それにすぐ別れたんじゃないし、ちゃんと円満に別れてるし」 「円満に別れるて何やねん」 「あははっ」 「笑うとこちゃうやろ!」 フンッと鼻を鳴らしたチリが、思い出したようにナゲットをソースから引き上げる。ドロリと垂れたソースがチリの不満の現れに見えた。 「そら忙しくてちょっと疎遠になってたけどなあ、そん時くらい、連絡寄越さんかいアホ」 「それは……、ごめん」 気まずい沈黙が流れる。チリと居てこんな空気になるのは初めてだ。 学生時代、チリ相手に「すれ違った」「目が合った」「声掛けられた」と騒いだのが懐かしい。あの頃の私はいつか彼と付き合う日を夢見て青春を謳歌していた。 けれどふと隣に居るチリを見て、彼としたい事は全てチリにも出来る事だなと思っていた。カフェに行くのも、デートするのも、手を繋いだりハグをしてみたり、それからその唇に触れ合う事も。全部、チリとならやってもいい、やってみたい事だった。 その事にはっきりと気付いたのは卒業してチリともあまり連絡を取らなくなった頃で、私が彼と別れたのはそれからすぐの事だった。 上手く誤魔化せられない自分のバカ。そう後悔しても重たい空気は戻せない。 ならせめて、別れた理由は秘密にしよう。せっかくチリに会えて、あの頃の友情が復活しそうなんだから。 「てかアイツも何やねん。好きになった女やねんから一生愛さんかい。チリちゃんの{{kanaName}}を預かってんから幸せにせなあかんやろ」 「いや、チリちゃんの{{kanaName}}って何言ってんのよ」 「やって、自分は、卒業するまではチリちゃんの{{kanaName}}やったやんか……せやのに彼氏出来た途端に冷たなるし、別れても戻ってこぉへんし、何やねん自分、ふざけんなや」 「それは……、ハイ、スミマセン」 「なら約束してや」 ごめんと下げた頭を戻してチリを見る。グローブを外した手が、私に小指を突き出している。 「二度と勝手に疎遠にならへんこと、ええな?」 じいっと見つめる瞳があまりにも必死で、情けなくて、可愛くて、私はふはっと吹き出して小指を絡めた。こんな事、学生の時だってした事ない。 「ほっ、ほな、じゃあ、最後の1個はチリちゃんがもーらいっ!」 ぱっと離れた指がぽつんと残ったナゲットをつまみ上げる。照れ臭いのを隠すように一口で頬張ったチリが、飲み込むのに苦戦して変な顔をしている。ああ、だめ、笑っちゃう。 チリの頬に付いたソースを紙ナプキンで拭き取って、次は大事に育てたいなと思いながら、「何してんのばーか」と軽口を叩いた。