忙しいミクリを休ませたい夢主がミクリをカフェに誘う ※ワーパレお借りしました→@torinawx
ミクリさんは忙しい。 ジムリーダーの仕事にコンテスト運営への協力、事件や事故が起これば救助の協力をして、ジムが休みの日には水上ショーも開いている。最近ではパシオアカデミーで講師まで引き受けて、あっちでも講義にショーにと忙しい。人を喜ばせるのが大好きなミクリさんは、何かあればすぐに手を差し出す人なのだ。 とは言え、いくら何でも働きすぎだ。だから一度体調でも崩してくれれば注意できるのに、体調管理も万全で、ここ数年風邪はもちろん薄い隈一つ作らない。悔しい事に無理はしていないのだ。それでも、まとまったお休みを取っていないのもまた事実で。 何とかしなくちゃ。わたしはポケナビからとある人物へ連絡を取った。 「素敵な場所だね」 ミクリさんがカップをそっと置いて目を細める。エメラルドグリーンの瞳は目の前のわたしを映し、それから店内へと目を向けた。 ここはミナモの片隅にある小さなカフェ。吹き抜けになった店内は開放感に溢れ、高い天井を見上げると色鮮やかな鳥ポケモンが飛び回っている。ホウエンでは見かけない種類のポケモンもいて、ちょっとした旅気分も味わえる。 海の見える席は時期が合えばホエルコウォッチングが出来るのがちょっとした売りで、それを知っている常連客は見晴らしの良いテラス席よりもそちらを好んで座っている。もちろんわたしもホエルコ目当てで窓側の席を選んだ。ミクリさんも「ミナモの海も素晴らしいね」と陽光の煌めく水面に顔を綻ばせる。 「ミクリさんはやっぱり山より海?」 「どうだろう、考えた事がなかったよ。でもそうかもしれないね」 水面がざぷんと揺れ、丸く青い体がひょっこり現れる。海と同じ色をした瞳がホエルコを捉え、じっと視線を注ぐ。 その瞳はホエルコを見ているようで、意識は思考の海に深く潜ってしまっている。大方、次のショーの構成を考えているんだろう。不定期に(と言ってもミクリさんの都合がつけば何度だって)開かれる水上ショーも、ミクリさんは一度だって手を抜いた事がない。 「──────だよね?」 「ん、ああ、そうだね」 ぼそぼそと言った言葉に、ミクリさんが適当に相槌を打つ。 わたしが「だよね」と言うと、大抵の事に肯定すると気付いたのはつい最近の事だ。考え事をしていると特に顕著で、ろくに話を聞いてない事もよくある。今も、「なら山の方が好きだよね」と聞いたのに「だよね」を強く言ったから簡単に頷いている。 わたしの前だから気を抜いているんだろう。それはそれで嬉しいけれど、生返事は良くない。返事をするなら話はちゃんと聞かなくちゃ。 しばらくミクリさんの思案顔を眺めていると、ポロンと音が鳴った。室内に置かれたピアノの鍵盤の上で、黒と白の可愛らしい小鳥のポケモンが小さな足を揃えてピョンピョンと歩いている。その時に音が鳴っているようだ。 ミクリさんの思考が途切れ、そちらを向く。戻ってきた瞳はほんの少しかげっていた。 「申し訳ない、{{kanaName}}と居るのに考え事をしてしまっていたね」 「ううん、ホエルコ可愛いからわたしも見入ってたよ。それにほらあのポケモン……ツツケラだっけ? あの子も可愛いね」 「ふふ、そうだね」 エメラルドグリーンの瞳が鍵盤で踊るツツケラを見つめる。けれどそのうち顎に指を掛け、焦点がどこか遠くへ行ってしまう。 ピアノを見て次のショーは生演奏をしようだとか、タイプに囚われずに色んなポケモンを取り入れてみようだとか、きっとそんな事を考えているんだろう。ミクリさんってば舌の根も乾かぬうちに考え事に没頭している。 だから、わたしはまたぼそぼそと喋ってミクリさんに「ね?」と訊ねた。 「ああ、そうだね」 と、ミクリさんは反射的に答えて、けれど何か違和感があったのだろう、ハッとわたしの方を見て「今、何と?」眉根を寄せた。 「だから、アローラで本場のツツケラを見るのが楽しみだね、って」 ぱちぱち、とエメラルドグリーンが瞬いて、眉間のしわが深くなる。困惑に、申し訳なさに、それから躊躇いもだろうか、兎に角ミクリさんの顔色は良くない。 「それは素晴らしい提案だけど、しばらく先の予定になってしまうよ」 「設備点検期間に行けばいいでしょ」 「それでもたった二日では行って帰るだけの時間しかないよ{{kanaName}}」 それはミクリさんの言う通りで、半年に一度あるジムの設備点検による二日の休館でアローラ旅行するなんてちょっと無謀だ。 でも、わたしのミクリさんを休ませよう計画はアローラ旅行を夢見るだけじゃない。 「二日? 一週間だよ」 ポケナビでとあるメールを開く。それは秘密裏にチャンピオンとやり取りしたメールで、交渉の末にミクリさんの休暇をもぎ取った証拠でもある。 「休館が一週間だって? これはどうして…………ダイゴまで……」 頭を手で押さえて疲れたように息を吐いて、ミクリさんが顔を上げる。呆れた顔は口元が緩んでいる。ミクリさんが正論を説いたところで敵う相手じゃない、と分かっているんだろう。あのチャンピオンは味方に付けるととても強いのだ。 「ちなみに飛行機のチケットもホテルの手配も全部ダイゴさんがしてくれました」 「まったく……お土産の石はいくつ必要かな。帰りは荷物が重くなりそうだ」 私の為にありがとう、とミクリさんがわたしに手を伸ばす。指先が触れ合って、絡み合う。自然と頬が緩んで、じっと瞳を見つめ合う。 「アローラ、楽しみだね」 「ああ、とっても。ふふっ、早く準備しないといけないね」 ミクリさんが微笑む。窓の外に広がる海にも負けない穏やかなエメラルドの海が二つ、きらきらと煌めいていた。