ゲンさんにナンパから助けてもらった夢主だけど不満がある。
波動というのはひどく厄介だ。曰く、それは心や魂の揺らぎで、そこから気持ちや考えを読み取る事が出来るのだとか。 つまり、わたしがどんなに隠し事をしたくてつむじから爪先まで細心の注意を払い決して顔にも言動にも出さなかったとしても、波動が全部全て筒抜けにしてしまうのだ。それが厄介でないとは言わせない。 「全部は言い過ぎだ。わたしもそこまで波動を読み取れはしないよ」 ふぅん? 今まさにわたしの頭の中を覗いて返事をしているのに? じとっ、とゲンさんを睨むと困ったように眉を下げ肩を竦めた。分からないと言いたげな顔だ。でも、それこそ考えを読み取っているが故の態度だろう。わたしは睨み付ける目を一層鋭くする。 「だがそのお陰でわたしはきみを遠くからでも見つける事が出来る」 どんなに離れていても。そう言ってゲンさんが微笑んだ。 普段の聡明さを湛えた瞳に、暖かな輝きが灯っている。わたしにだけ向ける柔らかな表情。わたしが大好きな笑み。そしてそれはちょっとした怒りなら簡単に吹き消してしまう。 ほら、やっぱり波動は厄介。わたしの心を読み取って、今一番欲しいものまで見透かしていく。 「別にナンパくらい自分で何とか出来ました」 「それでも怖い思いをしたよね? 波動もひどく震えていたよ」 「それは、だって、」 だって、突然知らない男性に馴れ馴れしく声を掛けられたら、わたしに限らず誰だって驚いて警戒する。 でもだからって自分で対処出来ない訳じゃない。波動が読めるなら、ちゃんとそこまで読み取って……って、あれ? 「ゲ、ゲンさん、それ、こうてつ島から読み取ったの?」 「遠すぎると大雑把にしか感じられないが、大きな揺らぎはよく分かるね」 ちょっと待って。ストップ。一旦落ち着こう。 それってつまり、何処にいてもゲンさんにわたしの全てが筒抜けってこと? じゃあ会えなくて寂しいと思いながら電話してるのも、こっそり撮ったゲンさんの写真を眺めてニヤニヤしてるのも、全部バレちゃってるの? うそうそ、やだやだ、恥ずかしい! 「そうかな、わたしは可愛いと思っているよ」 「──〜〜ッッ!!!」 くすっとわらうゲンさんが本気でそう思っていそうなのが一層羞恥に拍車をかけ、反射的に開けた口から声にならない叫び声が上がる。 けれどそれすらゲンさんは包み込むように微笑むのだ。彼はわたしが言葉に出来ない思いすら読み取ってしまう。本当に、本当に波動は厄介だ。 「も、もうゲンさんなんか知らないッ!」 ゲンさんは楽しそうにクスクス笑っている。そんなゲンさんにフンッと鼻を鳴らして歩き出すけど、これもゲンさんには筒抜けなんだろう。 だからわたしは心の中で強く念じる、着いて来ないなら本当に嫌いになっちゃうから!と。しばらくして後ろから足音が聞こえてきた。 ──どこに居ても心がバレてしまうなら、いっそ利用しちゃえばいいんだ! そうしてわたしはゲンさんが追い付くまで、思い付く限りゲンさんの好きなところを思い浮かべ、やっと隣に並んだゲンさんの顔を赤く赤く染めてやったのだった。