ダイゴさんは私に何の興味も持っていない、それどころか嫌ってすらいる――そう確信したのは三度目のパーティ、風に春の訪れを感じる頃の事だった。
デボンコーポレーションの御曹司には恋人がいないらしい、お前も頑張ったらどうだ。
そう言った父の顔には笑顔が浮かんでいた。過度な期待はせず、けれど良い方向へ進めば嬉しい、そう書いてある。
そんな父親のささやかな応援に背中を押され、私はパーティでダイゴさんを見掛ける度に積極的に声を掛けた。彼の周りにはいつも沢山の人がいて近付きさえ出来ない事もあったけれど、何とか数回、挨拶だけでなく二言三言話す事が出来た。
そして、気付いてしまった。
初めて顔を合わせた時、彼は爽やかに笑っていた。彼に思いを寄せる女性なら皆顔を赤くしてしまう、甘い笑顔だった。私も例に漏れず頬の火照りを自覚しながら、先日のチャンピオン防衛戦勝利を祝福した。唇を緩くしならせたその表情は綺麗の二文字がよく似合っていた。
次に会った時、ダイゴさんは私をすぐには思い出せなかった。謝る彼に気にしていない振りをしたけれど、心はチクリと痛みを感じていた。
けれど同時に、本当に彼は私を覚えていないのか少し怪しく感じていた。だって彼は私と目が合った瞬間、眉間に皺を寄せ嫌そうな顔を見せたのだ。覚えていないと言うには強い感情を向けられていた。
そして三度目。彼はにこりと微笑みながら私をあっという間に追い払った。
ダイゴさんは私を覚えていて、笑顔で拒否を示していた。
叶わぬ恋だと分かっていた。それでも好きな人に拒絶されたら恋心は深く傷を負って胸を引き裂くような痛みに涙が滲む。
けれどそれは彼に言い寄る女性は皆受けている洗礼だった。そこで早々に手を引くのか、それとも粘ってしがみつくのか、不思議な事に多くの女性は前者を選ぶ。
確かに彼は大企業の御曹司だ。けれど同じ条件の男性は他にも沢山いる。ホウエン地方チャンピオンという名誉ある地位ですら数あるステータスのたった一つと捉える女性にとって、ツワブキダイゴという人物はプライドを傷付けられながらも必死に求める存在ではなかった。
そして彼自身もそれに気付いているようで、去っていく女性達に冷ややかな視線を送りながら、新たに近寄る女性へ拒絶の態度を取る。そうやって彼から離れる女性を増やしては、私達に向ける瞳の温度を更に下げていく。彼の周りはいつも人で溢れているのに、そこは極寒地のようにひどく寒かった。
私は違うのに。とうに遠くなったダイゴさんを見つめて握り拳を作る。私はちゃんとツワブキダイゴという人間を好きになったのに、それを伝える僅かな時間さえ与えてもらえない。悔しくて、悲しくて、だから諦めきれなくて。
けれどその時はまだ勇気を持てず、遠くなる背中を黙って見つめるしか出来なかった。
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