あれから数週間が経っていた。ダイゴさんからの連絡は未だにない。
初めの数日はいつ鳴るのかと一日中ポケナビを気にする生活を送っていたものの、一向に来ない連絡に疲れ果てて忘れる事にした。けれど無視をすればする程、意識は鳴る事のないポケナビへと向けられる。考えたくないのに頭から離れない。
時計はもうすぐ次の日を指し示そうとしていた。カーテンの隙間から、少し欠けた満月が眩しく光る。
私はまたポケナビを手に取っては届かないメッセージを確認する。ないと分かっているのに、どうして何度も見てしまうのだろう。自分の愚かさに嫌気が差す。
それでも、きっと明日も明後日も繰り返すに違いない。終わらなかった恋を持て余しながら、恋煩いなのか失恋のせいなのか判別できない痛みに耐え忍ぶ日々を過ごす自分が、鮮明に思い浮かぶ。
だからポケナビが控えめな音を鳴らして知らせたメッセージも、願望の見せる幻覚にしか見えなかった。
『明日14時ミナモシティポケモンセンター前』
いつの間に夢を見てしまったのだろう。一度ポケナビを伏せてひとつ呼吸をして、再び画面を確認する。それでも信じられなくて手の甲をつねったら手加減を間違えてひどく痛かった。これは、現実だ。
画面を見る。待ち合わせ時間と場所、一行空けて『雨なら中止』と、必要最低限の単語だけが並んでいる。他には何もない。こんな遅い時間に連絡した事にも、こんなに待たせた事にも、全く触れていない。
待ちに待った連絡だったのに、あまりに人の心を感じない文面に顔から表情が消えていく。期待に膨らんだ心もみるみる萎んでいった。一瞬前の浮かれた自分がひどく馬鹿らしい。
こんな連絡なら来ない方がよかった。夢に見たダイゴさんからの連絡はもっと紳士的で友好的で、こんな、愛想の欠片もない文字の並びなどではなかった。身勝手な期待と願望だと分かっていても、むしゃくしゃする心が下唇を噛む。
それなのに、私の指はぐちゃぐちゃになる心とは無関係に『分かりました』と返事を打っていた。あっ、と気付いた時には既に送信され、明日の予定が塗り替えられてしまう。明日は休日で、すでに友達との約束が入っていたというのに。
私はポケナビを枕元に投げ捨てると、滲む視界に無理やり幕を下ろした。
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