無理やり繋いだ縁は解いてしまえば後には何も残らない。だから跡形もなく消え去った縁を繋ぎ直す事なんて出来る筈なかった。
あの日以来ダイゴさんから連絡が来た事はなく、私も何かを伝える事はなかった。ダイゴさんの方は知らないけれど、私は連絡先もメッセージも彼の連絡先が分かるものは全てあの日に消していた。だから私からダイゴさんへ連絡する事は、絶対に出来ない。
ポケナビにニュースが届く。ちらりと画面へ視線を向ければ『チャンピオン』の文字が目に入った。その言葉が指すのは彼だけではない。でもきっとダイゴさんの事だろう。記事へと目を落とすと案の定、彼の名前が綴られている。
『チャンピオン・ダイゴまたまた防衛成功』
今までのチャンピオンや他地方のチャンピオンの事情は知らないけれど、ダイゴさんがメディアの前に現れるのはごく稀で、姿は勿論、名前すら定型文で配信されるニュースの中でしかお目にかかれない。ダイゴさんをもっと知りたくても、知る術も得られる情報もとても限られていた。以前はそれがもどかしく、ダイゴさんの名前が出ている媒体はどんな小さなものでも目を通しては子供じみた恋を募らせていた。
けれどこんな事になってしまった今、彼がメディア露出の少ない人である事に心底ほっとしている。もしも毎日のように名前や映像を見掛けたなら、私の心はズタズタに切り裂かれていたかもしれない。見ないようにすれば何も分からなくなる程遠い存在の彼に、今ばかりは感謝をした。
「最近は全然サイユウへ行ってないがもうチャンピオン戦は見ないのかね」
控えめなノックの後、同じニュースを見たであろう父が部屋へと入って私の顔色を伺う。ダイゴさんと連絡先を交換して出掛けた事は父には言っておらず、故に彼の中で娘はパーティ会場できっぱり振られた事になっている筈だ。
だから、たとえあのパーティからどれだけ日数が経っていようと、娘が自らその名を口にしない限り話題を振るのは控えてくれるのが親心ではないのだろうか。けれどこの父ときたら、そんな事お構いなしにダイゴさんの話を振ってくる。チャンピオンが大好きで熱心なファンというのは、時々とても面倒な存在だ。
「実はな、今度のチャンピオン戦を見に行けなくなってしまって、代わりに{{kanaName}}に見に行ってもらいたいんだ」
頼んだよ。そう言って無理やり渡されたのは観戦チケット。まだ返事もしてないのに握らされたそれを返そうとしても「四天王のバトルも素晴らしいんだ」と何がなんでも押し付けようとしてくる。
「新しいグッズがあればそれも頼んだよ」
チケットを託す事に成功した父は娘の抗議を無視して意気揚々と部屋を出ていってしまう。バタン、扉が閉まって部屋に静けさが戻る。
視線をチケットへ落とす。印字された座席はかなりの良席だ。こんなチケットを紙屑にしてしまったら、父でなくとも怒る人が出てきそうだ。観念する訳ではないけれど、諦めの混じった溜め息が零れた。
私はチケットが勿体ないという尤もらしい理由を盾に久し振りに観戦する事を決める。
ダイゴさんに別れを告げたあの日から、半年が経った頃だった。
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