4.差す光とをなくす花(5)




 信じていた。優しいのも、恋人のように接してくれるのも、全てダイゴさんが彼の心に従ったからだと、信じていた。ダイゴさんの心にも私と同じ感情が、友愛でも義務でもない、強い愛情があるのだと、だからこそ私へ微笑んでくれるのだと、信じていた。
 けれどそれらは全て私の愚かな幻想で勝手な思い込みだった。ダイゴさんは私の馬鹿げた願いを叶える為、生真面目に接しただけだった。何かが芽生えたと思って浮かれていたのは、私だけだった。
 思い返してみれば、ダイゴさんは今まで一度たりとも私への好意を口にしなかった。手を繋いでも肩を寄せても唇を重ねても、好きの一言だけは言ってくれなかった。
 いや、言えなかったんだろう。彼は嘘を吐くのが苦手そうだから。少し考えれば気付けた筈なのに、浮かれて舞い上がった私は、何も不審に思う事はなかった。
 けれど、でも本当は分かっていた。芝居めいた優しさに、大袈裟な愛情表現に。だから私も一度たりとも好きとは言わなかった。言えなかった。
 嘘で塗り固められた関係が壊れてしまうのを恐れ、自分を騙して甘い蜜だけを吸っていた。そうして今まで幸せな夢から覚めないよう、見たくないものから必死に目を逸らし続けてきた。気付かない振りをし続けた。でも、もうお終いだ。
 これから、どうしよう。数分前に届いたメッセージに溜め息が零れる。あれ程喜んでいたダイゴさんからのお誘いも、今では地獄への招待状でしかない。
 辛いなら断ればいい、終わらせたらいい。かつてなりふり構わず抱いてほしいと言ったように、また自分だけを優先して叫べばいい。
 でも出来ない。言える筈がない。ダイゴさんに優しくされて、愛されていると錯覚させられた私は、偽りの幸福であってもそれを手放せない。
 かと言って今までのように接する事はもう出来ない。微笑むダイゴさんへ同じように微笑み返す事も、もう出来ない。決して届く事のないこの思いを抱えて笑える程、私は器用ではなかった。
 だから私は逃げた。
 誘いには用事があると返し、その後も直前で体調が悪いと断った。でも全く会わないのも耐えられなくて、その次の誘いは喜んで受けてしまった。それでも形ばかりの優しさに虚しさを感じて何かと理由をつけて夜までには別れ、過度な触れ合いもやんわりと断った。「{{kanaName}}の為に良い席を用意したんだ」と笑顔で渡されたリーグ観戦チケットは父に譲って見に行かなかった。後日その事を謝ったら「急用なら仕方ないよ」とダイゴさんが悲しげに笑ったけれど、全部ぜんぶ見なかった事にした。


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