夢見る蕾が開く(4)




「いつからですか」
 先程まですぐ近くを歩いていた海辺は今、大きな窓の外に広がっていた。濃紺の海は波に揺られながら月光を宿している。
 照れを隠すように外の景色を眺めながら、耳だけはダイゴさんへ注意を向けて返事を待つ。悩むような唸るような声がして、「それは、」ダイゴさんが重たい口を開く。
「最初から、かな」
 意外な返答に思わず首を傾げる。どういう事、と頭を悩ませるけれど、そんな時間も聞き返す時間も私には与えられなかった。ガラス窓にダイゴさんの影が写ったと思ったその刹那、背中からぎゅっと抱きしめられていた。
「{{kanaName}}が初めて声を掛けてくれたあの日、目が合った瞬間、本当はきみに惹かれていたんだ。でもボクは余計な事を考えてしまってきみを邪険にして、自分に正直になれなくて、{{kanaName}}を突き放そうとした」
 意図の読めなかった言動の数々を思い出す。そう言われると納得が出来る気がした。
 ごめん、とダイゴさんが頬にキスをする。頬が熱い。
「だから後になって本当は好きだったなんて言えなくてさ。行動ばかりが先走って、結果として{{kanaName}}を蔑ろにしてしまったね」
 沢山の記憶の中のダイゴさんはいつも笑っていた。誰にでも見せる笑顔だと決め付け避けてしまった事もあったけれど、あれらは嘘偽りなく私への好意の表れだった。勝手な思い込みで事実を歪めていた事を、今さら後悔する。
 ダイゴさんが首筋に顔を埋める。唇とは異なる感触に肩が震えて声が漏れた。そんな私を小さく笑うから首筋に吐く息が当たってさらに体の芯が疼く。
「でも傲慢でしかないけどさ、伝わってると思ってた。だから今日リーグの皆に紹介して、その後きみにちゃんと告白するつもりだったんだ」
 首筋に鋭い痛みが走る。ひとつ、ふたつ、花弁が散るように赤い痕が刻まれる。肌が火照り、抑えきれない色情がじんじんと甘く痺れる。逃げるように「シャワーがまだだから」と言ってみると、鏡のように反射した窓越しにダイゴさんと目が合った。見た事のない笑みが私へ向けられていた。
「ボクはきみの全てが知りたいんだ」
 艶やかな笑みに心臓がどくんと跳ねる。同時に背中から私とは異なる鼓動がどくどくと響いてくる。アスコットタイから色を分けてもらったような赤い頬に、強敵を前にした時のようなギラギラした炎を奥に隠した瞳がゆるりと笑みを作る。
「今すぐに」
 抱きしめられた体がベッドへと導かれ、真っ白なシーツの海に沈んでいった。


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