恋心を隠してダイゴとバトルの特訓をする夢主だったが、熱が入りすぎてすっかり日が暮れてしまったこの日、ダイゴから予想外の提案をされる。
「わっ、もうこんな時間」 すっかり日が落ちて暗くなった草むらにはっとする。瀕死になったキノガッサをボールへ戻す際に放たれた光がやけに目に痛かったのは当たりが暗くなったせいだった。 {{kanaName}}は今まで相手をしてくれていたダイゴに目を向ける。勝負を始めた頃はしっかりと見えていた彼の姿も今は暗闇の中にかろうじて輪郭が見えるだけだ。黒のスーツは夜に紛れ、髪が星屑のように煌めく銀髪でなかったら簡単に闇夜に溶けてしまうだろう。 ふと旅の最中は明るい色の服を着ろと口を酸っぱく注意されたのを思い出す。いくつかあった規則は年頃の女の子には煩わしい事もあったが、旅を終えた今はどうして懐かしい。次からは明るい色やリフレクターの入った服を着ようかな、{{kanaName}}はそんな事を考える。 「いつもありがとうございます」 なかなかの激戦を繰り広げたにも関わらず平然とした様子で風になびく草むらの逞しさに感心しつつダイゴへ近付く。{{kanaName}}のキノガッサと対照的にダイゴのアーマルドはまだ数戦は余裕といった表情をしている。さすがチャンピオンのポケモン、{{kanaName}}は何度も手合わせしていたが未だ彼のポケモンを全て地に伏せる想像すら出来ないでいる。彼女の旅はサイユウリーグというゴールにこそ辿り着いたがまだまだ終わりには程遠かった。思わずため息が零れる。 「ふふっ、今日の{{kanaName}}は強かったね。ボクも少し焦って本気になっちゃったよ」 つまりそれは今まで手を抜かれていたと同義であり、{{kanaName}}から追加のため息と呻き声が漏れる。バッジを集め、チャンピオンロードを抜ける実力はあってもダイゴにとっては新人トレーナーとさして変わらないのだろう。敵わない、と心が折れて負けを認めたくなってしまう。 「次こそギャフンと言わせますから!」 けれど諦めてしまったら{{kanaName}}はダイゴと会う理由がなくなる。打倒チャンピオンを掲げるトレーナーの特訓相手をチャンピオン自ら買って出るなんて酔狂だと呆れたが、{{kanaName}}にはこれしか頼る糸がない。ぎゅっと握りこぶしを作って自分を鼓舞する。ダイゴが楽しそうに笑った。 「じゃあまたお願いします」 頭を深々と下げて礼を言う。それにしても今日は頑張りすぎてしまった。いつもなら夕焼けを合図に終わりにするのだが、{{kanaName}}もダイゴも熱が入りそこからもう一試合してしまった。この夜空の中を特訓でくたくたのトロピウスに飛んでもらうのは少し申し訳ない家に帰ったらうんと労わってあげないと。{{kanaName}}は腰に提げたトロピウスのボールを掴んだ。 その時だ。 「少し休憩した方がいいんじゃないかな」 その声にボールを投げようとした腕が止まる。ダイゴを見ると考え込むように顎に指を掛けて{{kanaName}}を見つめ返した。 「それに感想戦もまだだしさ」 いつも特訓の後には感想戦、もといダイゴからの講評をもらっていた。けれど今日はもう暗いからまた今度でいいかと思っていた。直接会う理由は特訓しかないが、何かと託けて二人はメッセージのやり取りは行っている。今日の講評も送ってもらえばいいのだ。だから少し勿体ないと悔やんだものの、{{kanaName}}は仄かな下心をぐっと押し止めて失礼にならないように断る。わたしのトロピウスはこれくらい平気であるし、遅い時間まで付き合わせるのは申し訳ない、と。 けれどダイゴは「ボクの事は気にしなくて構わないよ」と静かに首を振る。 「第一、こんなに暗いところを一人で帰るなんて危ないよ」 「わたしもポケモン達も、これくらい大丈夫ですよ」 日はとうに沈み地平線に広がっていた茜色も見えなくなっていた。けれど空には星が瞬き、月明かりが夜の世界を優しく照らしている。それに{{kanaName}}もバッジを8つ集めたトレーナー、何かあった時に身を守る力は持っている。心配されること自体は嬉しくてその善意に甘えたくなるが、飛び付いて色恋目当ての女だと思われたら大変だ。{{kanaName}}はダイゴの事は好きであったが、それと同じくらいポケモン勝負に強くなりたい気持ちも本物だった。 「ボクもきみの実力は分かっているよ……でも、その上で言ってるんだ」 見ればダイゴの頬がじんわり赤に染まっていた。けれど夕焼けはとっくに消えていて、近くに別の赤い光も見当たらない。どうしてだろう、{{kanaName}}は眉をひそめ考える。と、瞬き3つ程の時間を置いてはっとする。 頬の血流が良くなって顔が赤くなっているんだ。やけに鈍い頭がのろのろと答えを弾き出す。だとして、一体どうして。{{kanaName}}は再び考え込む。そんな彼女をどう思ったのか、ダイゴが続けて口を開いた。 「たまにはポケモン勝負以外で格好付けさせてくれたっていいじゃないか」 眉を八の字に下げ、困ったように笑って、ダイゴが照れくさそうに頬を掻いた。空から落ちた星のようにきらりと輝くアイスブルーの双眸が{{kanaName}}を向いて瞬く。{{kanaName}}が一つの答えを導き出したのはその時だった。 もしダイゴさんに特別な感情がなかったらわたしが盛大に勘違いをしている事になる――そんな最悪の展開を頭の隅に置きながらも心臓はどくどくと速くなって顔はすっかり熱くなる。初めて明確に向けられたダイゴからの好意に、今まで必死に押し隠していた彼への想いが熱となって鼓動となって表出していく。{{kanaName}}は恥ずかしさを隠すように視線を逸らし髪を撫でた。 「ねぇ、どうせだし夕食を食べながら話をしよう。近くにボクのお気に入りの店があってね、{{kanaName}}も連れて行きたいんだ」 川の水が下流へと流れていくように、至極自然な手つきで手を握られる。ほっそりとした見た目とは裏腹に自分よりも骨太の指と大きな手の平を肌に感じて{{kanaName}}の頬が一層赤くなった。 この人には勝てそうにない、{{kanaName}}は完敗を悟りながら隣に目を向ける。ゆっくりと歩き出すダイゴの横顔はすっかり澄ました顔をしていた。しかし頬は赤く染まって強ばっていて、{{kanaName}}は初めて勝てるかもと一筋の光が見えた気がした。