よもすがら

自分を待っている内に先に眠ってしまった夢主と、そんな夢主に構って欲しいダイゴ
※ダイゴ視点
(『#ベッドルームのワードパレット』5.よもすがら)

 保存ボタンをクリックしてふうと息を吐く。一段落ついた仕事に、椅子から立ち上がり強ばった身体をほぐすように背筋を伸ばした。そうして背後を振り返ったダイゴの瞳に写ったのは、自分に背を向けてベッドで眠る愛しい彼女の姿だった。

(待たせすぎちゃったかな)

 静かにベッドへ腰掛けて{{kanaName}}の髪に指を絡める。さらりと流れた髪に自然と頬が緩んだ。そっと顔を近付けて先まで艶やかに光る髪へ唇を落とすとふわり、ほのかに漂う花の香りが鼻腔を擽った。ダイゴが{{kanaName}}の為に用意したシャンプーの香りだ。
 そういえば、と壁の時計を確認する。自分ではせいぜい小一時間程度だと思っていたが時計の針はダイゴの体感の倍は仕事をしたようだ。持ち帰った仕事が終わらず何度も頭を下げたダイゴに「ちょうどゆっくりお風呂に入りたかったから」と{{kanaName}}が笑っていたのは数時間も前の事だった。ダイゴの邪魔をしないようにと大人しく待ち続けて眠ってしまうには充分な時間が経過している。
 けれどダイゴは自分の事を棚上げして{{kanaName}}に小さな不満を覚える。今日のダイゴの予定では、この時間は疲れた体を大好きな彼女に癒してもらっているはずだったのだ。

「{{kanaName}}、起きてくれないのかい?」

 気付いてほしくて、櫛で梳くように{{kanaName}}の髪に指を通す。しかし無理に起こすのは大人気ないと良心が思いとどまり、呼びかける声は囁くよりも小さかった。
 果たして、{{kanaName}}はダイゴに背を向けたままスヤスヤと寝入ったままだった。ダイゴの眉間にしわが寄る。ダイゴはもう一度、今度は髪を掻き分けて現れた耳へぐっと顔を寄せて名前を呼んだ。{{kanaName}}への遠慮や、気遣いの出来る自慢の恋人という栄誉は、今すぐ起きてほしいという我の前で呆気なく消え去っていた。

「んっ……、」

 二度の呼び掛けが意識にまで届いたのか、{{kanaName}}が僅かに身じろいだ。反射的に体を離したダイゴは、再びそっと近付きその顔を覗き込む。しかし起きた様子はない。じゃあもう一度、と三度名前を呼ぼうとしたその時、{{kanaName}}の腕がダイゴの顔を掠めた。

「んうっ…、」

 無意識に動いた{{kanaName}}の手は力無くベッドへと落ち、驚くダイゴをよそにころんと寝返りを打った。ダイゴが名前を呼んでも今度は何の反応も返さなかった。

(まいったな……)

 ダイゴから大きなため息が零れる。しばらく目を閉じ、意を決して視線をこちらに顔を見せる{{kanaName}}へと向けた。まずは気持ち良さそうに眠る{{kanaName}}の唇をじっと見つめ、それから小さな赤い痕が残る首筋を捉え、さらに下へと視線を動かす。
 暑いからとパジャマの一番上のボタンを留めなかったせいで胸元がはだけていた。ダイゴの瞳はそこから見える肌に釘付けになる。普段は意外と目にする機会の少ない胸の膨らみがはっきりと見えていたからだ。横向きに寝ているおかげで普段以上に谷間も強調されている。
 思わず唾を飲み込む。寝ている彼女に手を出すほど獣に落ちるつもりもないが、かと言って平然と眠れるほどダイゴも淡白ではない。人並みに性欲は存在し、今まさにそれを持て余している。

「抱いても、いいかい?」

 ダイゴはじわりと体温の上がった手の平を{{kanaName}}の頭へ置き、頬へと滑らせ、僅かに開いた唇を指でなぞった。{{kanaName}}の喉から「う、んっ…」小さな音が鳴る。
 それは決してダイゴの言葉への返事ではなかった。けれどダイゴは理性的に思考するのを放棄して都合よくイエスの合図だと判断した。そうして自身の体を{{kanaName}}のすぐ隣へ横たえると、ダイゴを誘惑する胸元へ頬を寄せて愛しい恋人の体をぎゅっと抱きしめた。
 体を寄せて眠るには今夜は少し暑すぎた。しかしダイゴは汗ばむ肌など気にもせず{{kanaName}}の背中に回した腕に力を込める。よもすがら、ボクならきみを朝までだって抱いてられるよ、と何時間も前に水平線に沈んだ三日月を唇に浮かべて目を閉じた。