meow meow

やんちゃなポケモンに囲まれる夢主と構って欲しいダイゴ

 マンションの前に小汚いエネコが座っていた。
「もしかして誰かが餌付けしてるな…?」
 傍を通ったわたしに目をつけたエネコが可愛らしく鳴いてじっとこちらを見つめてくる。まずいと思って両手を上げて餌になりそうなものは持っていないとアピールする。しかしエネコは目ざとくビニール袋を見つけてにゃあにゃあと鳴くのをやめない。
 ここで何か食べ物をあげるなら飼うしかない。でも今のわたしにそんな余裕はない。それでも薄汚れて少し痩せたように見えるエネコを放置することも出来ない。
「1回で捕まってくれなかったらわたしはアナタを助けないからね」
 幸か不幸か、偶然持っていたモンスターボールを鞄から取り出してポンと投げた。エネコは嬉しそうにしっぽを振ってそれに飛びつき、無事に捕獲されてしまった。

***

「君の部屋は相変わらず凄いね」
 玄関のドアを開けるなり飛んでくるエネコが外へ飛び出さないよう首根っこを掴んでため息を吐けば、それを見ていたダイゴが感心した声を上げた。
「おっと、君も出ていこうとしちゃ駄目だよ」
 わたしたちの足の間を縫ってコソコソと脱走を試みていたジグザグマはダイゴによって胴をがしりと捕まれバタバタと手足を振り回している。
「ちょっと待って、今その子のボール探すから」
 ヒールを脱ぎすてどこかに転がっているはずのボールを探しにかかる。テーブルの下、棚の隙間、本棚の中、思い当たる場所を調べてもしかし見つからない。そんなわたしの足元にはエネコがベタベタと付きまとい、それを楽しく遊んでいると勘違いしたポチエナがキャンキャンと鳴きながら突進してきた。その声に驚いたのか、今までじっとしていたチルットが驚いてけたたましく鳴きながら部屋を飛び回る。いつもの風景だった。
「あーもう見つかんない、もうそこら辺に放しちゃっていいや」
「ん、これじゃないかな」
 ジグザグマを脇に抱えたダイゴが靴箱から何かを取り出した。それはモンスターボール、一体どうしてそこに入っていたのかは分からない。
「ジグザグマはプレミアボールで捕まえたからそれじゃない、それはエネコの」
 投げてみて、とお願いすると果たしてエネコはボールに吸い込まれた。よし、これで一先ず落ち着ける。
「あと何個見つけたらボクの彼女はボクに構ってくれるのかな」
 ジグザグマをポチエナにけしかけたと思ったら、ダイゴが後ろからわたしを抱きしめてくる。そういうの、今は無理でしょ。この子たちがハチャメチャしてる所でそんなことをする余裕はない。問答無用で引き剥がすとボールと何処かに隠れているマリルと寝室にいるはずのアブソルを見てきてと頼んだ。わたしはボール探しを再開する。
「ボールはあと3つだからね」
 クッションの下から1つ見つけジグザグマに投げてボールに収める。遊び相手がいなくなったポチエナがジグザグマの入ったボールに飛びかかる。玩具にされたらまた何処へいったか分からなくなる、慌ててそれを拾い上げエネコのボールと共にキッチンシンクへ投げ込んだ。これで取り敢えず2匹は確保、厄介な子たちは残りは3匹だ。
「マリルとボール、浴槽に浮いていたよ」
 アイロンを掛けようとして放置していた洗濯物の山の中に巧妙に隠されたボールを掘り出していたらマリルが濡れた体でそこへダイブしてきた。あっ、と後ろから気まずそうな声がする。振り返ると困り顔で肩を竦めるダイゴがスーパーボールを差し出してくる。
「ちゃんと捕まえててよ、もう」
「ごめん」
 真面目な声で謝っているがこの男、またわたしを抱きしめにかかっている。だからまずはポケモン達をボールに仕舞ってからって言ってるのに。
「チルットが何処かに止まったら投げて」
 引き剥がすのも面倒で受け取ったスーパーボールをダイゴに返す。そして洗濯物の山で豪快に濡れた体を吹くマリルの尻尾をぎゅっと掴んでこれ以上の被害が出るのを何とか防ぐ。洗濯物の山から救出したのはちょうどダイブボールで、それをこちんとマリルに当てれば水浸しのマリルも無事にボールの中へと仕舞い込めた。
「後はポチエナのリピートボールだけだから、ほら、ダイゴも探してよ」
「ベランダに見えてるあれ、そうじゃないかい?」
 ダイゴの指の先を追えばたしかにベランダに何か丸い影が見える。出かける前にきちんと戸締りは確認したのに、一体どうしてそんな所にボールが出ているんだろう。誰がそんな面倒なことをやらかしてくれたんだ。とにかくそれを拾おうと立ち上がる。が、それは叶わずダイゴの絡めた腕がわたしの身動きを封じていた。
「あの、」
「寝室のアブソルもちゃんとボールに入れるって約束してくれるなら離れようかな」
 部屋の中で自由気ままに暴れているポケモンたちはみんな拾ってきた子たちだったけれどアブソルだけはちゃんと捕まえた、いわゆるパートナーだった。だからわたしの言うことは基本的に従ってくれるしわたしに何かあれば守ろうとしてくれる。もっとも暴れるエネコ達を放置するところを見るに、わたしへの忠誠度はそれ程高くはないような気がするのだけど。
 そんなアブソルはダイゴのことが嫌いなようで、ダイゴが来ると必ず寝室に籠城を決め込む。本当に賢い子だ。
「離してくれないならここにアブソル呼ぶけど」
「それは、困るな」
 しぶしぶ解放したダイゴの腕の中から抜け出しベランダに落ちているボールを拾う。後ろをついてきたポチエナに向かってそれを投げてようやく部屋の中が静かになる。
 はずだった。
 何故かわたしの足にすりすりと頭を押し付けているのはエネコ、一番最初にボールへ戻したはずの子が何事もなかったように外へ出ている。
「うそ、自力で出る方法、覚えちゃったの…?」
 わたしのうめき声にエネコは元気よく鳴いて返事をする。ああ、そう、それはとても目出度いことね、早急にロック付きのモンスターボールを買わないと。
 エネコを抱き上げ肩に乗せる。ぐりぐりと顔を擦り付けてくるのは親愛の証なんだとか。わたしはフンフンと鼻息荒くぐりぐりしてくるエネコを落とさないように気をつけながら部屋へと戻る。
 不満げな顔のダイゴが盛大にため息を吐いた。
「僕よりエネコを取るんだ」
 拗ねたダイゴも面倒だけど拗ねたエネコの方がもっと面倒だから少し大人しく待っててほしい。しばらくしたら満足して自分からボールに入る子なんだから。
「ボクも君のエネコになりたいよ」
「耳と尻尾ならこの前買っちゃったのがあるけど付ける?」
「んー、それは君に付けてボクが可愛がる方が何倍も楽しそうだね」
 きらりと瞳を輝かせたダイゴはろくでもないことを考えている。わたしは慌ててアブソルを呼びつけた。
 エネコが満足気にみゃおんと鳴く。
 君は自由だね、なんて言えばさらにひとつ嬉しそうに声を上げた。