きらり、毎日、輝いて

恋人のダイゴにサプライズで珍しい石のペアネックレスを贈る

「これはキーストーンの欠片だね」

 目を輝かせるダイゴさんの視線の先にあるのはネックレス……にあしらわれた小さな鉱物。小指の爪ほどのそれはダイゴさんが持つ手をゆっくりと回すとキラキラと虹色に輝いた。
 ダイゴさんは神妙な表情で石を顔に近付け、かと思えば照明にかざして透かしてみたりと、わたしの事をすっかり忘れて興味深そうに欠片を眺める。ダイゴさんのアイスブルーの瞳が欠片に負けないくらいキラキラしている。サプライズは大成功だ。
 ニコニコ、もといニヤニヤ見つめていると、ひとしきり欠片を堪能したダイゴさんがハッと体を震わせわたしの方を向いた。小さな欠片に夢中になっていたのが恥ずかしかったのかもしれない、その頬はうっすら赤らんでいて、照れくさそうに頬を掻いた。つられて笑うとダイゴさんもにっこりと笑顔になった。
 
「欠片とはいえよくこんな珍しい物を見つけたね、それも二つも」

 ダイゴさんが手元のネックレスからテーブルの上に残ったもう一つのネックレスに目を向ける。
 それにも同じように七色に光る鉱物――ダイゴさんの見立て通りキーストーンの欠片が付いていふ。よく見慣れた球状ではなく少しいびつな水晶のような見た目なのにさすがはダイゴさん、伊達に石マニアを名乗っている訳ではないみたい。わたしは店員さんに教えてもらうまで珍しい水晶かと勘違いしていた。
ら 「たまたま見掛けて。ほら、こういうのならダイゴさんも着けてるのを隠せるし、いいかなぁ…って」

 出来るだけいつもの調子で答える。けれどソワソワした気持ちはそう簡単には隠し切れない。心臓はあっという間に全速疾走したみたいに速く騒がしく鼓動して、ダイゴさんの視線を受け止める瞳はあからさまに瞬きが増えた。
 
「だめ……、かな」

 ドキドキする心臓を胸に抱えながらこてんと首を傾け、精一杯作った可愛い顔でダイゴさんを見つめる。
 無茶なお願いでもなければ、迷惑のかかる要望でもない……と思う。それに、これは普段ダイゴさんがしている事――服でもアクセサリーでも石でも、ダイゴさんは気に入った物を「{{kanaName}}に似合うと思って」と何でもプレゼントする癖がある――を返しているだけだから、断られるのは納得がいかない。
 それでも返事を貰うまでは不安と心配で心臓が苦しくて、笑顔が端から強ばっていく。一秒が、ひどく長い。
 
「ボクがきみのお願いを断るとでも?」

 ダイゴさんは二つのネックレスを交互に見て、それからわたしに向き直って微笑んだ。
 
「素敵な贈り物をありがとう{{kanaName}}、これから毎日着けるよ」

 言うやいなや、ダイゴさんは器用に留め具を外すと手を首に回してネックレスを着けてしまった。その思い切りの良さにはいつも感心してしまう。
 キーストーンの欠片が深紅のアスコットタイの上でキラリと輝く。とても綺麗だった。ただ、残念だけどきっちりとしたスーツ姿にネックレスが見えているのは不自然で、分かっていたけれど普段は服の中に隠すしかなさそうだ。ダイゴさんも残念そうに眉を下げる。
 
「うーん、明日からアスコットタイは外そうかな」

 なんてね。ダイゴさんが小さく笑う。もちろん冗談だと思うけれど、その姿を想像したら今の何倍も色っぽくて見てみたい気持ちと他の人には見せたくない気持ちが胸の中でせめぎ合った。悩ましい、ひどく難しい勝負だ。
 
「こっちは{{kanaName}}のだよね。じゃあボクが着けてあげよう」

 なかなか決着が付かない勝負に頭を悩ませていると、ダイゴさんの手が首元に伸びてきた。
 ダイゴさんってば本当に決断も行動も早い。あっ、と思った時には抱きしめるようにうなじへと腕を回され、ダイゴさんの銀の髪がわたしの頬をくすぐった。そんなに密着しなくたって留め具は付けられるし、もっと言えば背中に回ればそんな格好をする必要もない。
 もう、ダイゴさんったら。さっきとは異なる理由で心臓が加速していく。
 
「うん、よく似合ってる」

 耳元でそっと息を吐くようにささやかれる。びりびりと全身を駆け巡る甘い刺激に背筋がぞわりと震えて、思わずダイゴさんを睨んだら真剣な目をしたダイゴさんに唇を奪われた。
 突然の事に思わず両目をぎゅっと閉じる。柔らかな感触が一瞬唇に伝わって、離れたと思ったら再び重なり合う。暖かくて気持ちいい。最初の1回こそ驚きで腰が引けたけれどその後はわたしもねだるように唇を啄んでいた。
 いつの間にかダイゴさんの手がわたしの頭と腰を抱いていて、わたしの両手もダイゴさんの背中に回っていた。口付けは次第に深くなって盛り上がっていき、けれど窓の外から聞こえる子ども達の声に羞恥心を煽られる。
 それでもわたしは自分からキスをやめられず、唇の隙間から入り込んだダイゴさんの舌に自分のそれを絡め合った。
 どれだけ時間が経ったか、名残惜しかったもののクラクラする頭が酸素を求めて大きく口を開けて唇を離した。はぁはぁと肩で息をしていると、まだまだ余裕のあるダイゴさんがわたしを見て満足そうに口角を上げた。その目はわたしを見つめているようで何か違う物を見ている。
 
「見て{{kanaName}}、光ってるよ」
「えっ、」

 わたしより大きくて力強い指が胸元を指差す。ついさっきダイゴさんに着けてもらったネックレスの、七色に変わるキーストーンの欠片をそっとつついた。ダイゴさんの言う通り、欠片がほのかに光っている。室内の明かりの反射とは異なる光が欠片の内側からじんわりと肌を照らしていた。
 
「本来キーストーンはメガストーンに反応するものだけど、たまにキーストーン同士で反応しあう物もあるんだ。ほら見てごらん、ボクのも光ってる」

 シャツの中から引っ張り出されたネックレスもほんのりと光を放っている。
 
「これはボクと{{kanaName}}の愛に反応してるんだよ。それにしてもすごいな、知識として知ってはいたけどこんなにはっきり光るんだね」

 えっ、と驚くわたしにダイゴさんが悪戯っぽく笑う。
 
「ふふ、ボクが知らないとでも思ったの?」

 ふわふわしていた頭がようやく動き始める。光る石とダイゴさんの言葉が思考回路へ流れ込み、状況把握に慌て出す。
 このネックレスはミナモのイベントで見掛けた露店で買ったもので、店員でアクセサリーの製作者でもある女性から『きずな石』の事を教えてもらった。心が通じ合うと光る不思議な石だ、と。
 その話を信じた訳じゃなかった。少し値の張るネックレスにそれらしい物語をこしらえただけだと思っていた。ただ、七色に輝く石はダイゴさんの家でも見た事がなかったからサプライズプレゼントにちょうど良いだろうとペアネックレスを買っていた。まさか本当に光るなんて。しかも、そんな迷信じみた話までダイゴさんが知ってるなんて。
 状況をやっと把握した体はぶわりと熱を上げ、ニヤリと笑うダイゴさんの視線が恥ずかしくて慌てて両手で顔を隠した。でも顔は耳まで真っ赤で欠片はいっそう強く輝いて、わたしの感情は両手で隠すまでもなくダイゴさんにすべて筒抜けだった。
 
「ねぇ{{kanaName}}、」

 顔を覆う両手にダイゴさんの手が重なる。熱くなった手の甲を、それに負けないくらい熱を帯びた手のひらが包み込んだ。混じり合う熱に胸のドキドキが止まらない。サプライズをしたのはわたしの筈なのに、いつのまにか立場が逆転している。
 指の隙間からダイゴさんを窺う。つり目がちの大きな瞳は優しさに満ちた眼差しをして、うっすら赤らんだ頬も柔らかく緩んでいる。
 ダイゴさんが両手に力を込めてわたしの手を開く。澄んだ空を閉じ込めたようなアイスブルーの瞳がわたしを真っ直ぐに見つめた。どくん、どくん、心臓が胸を突き破ってしまいそうな勢いで大きく跳ねる。

「かならず毎日着けるよ。だからきみもボクの事を想ってこのネックレスを着けるんだよ」