瞳にたゆたうブルーラグーン

年下でただの知り合いのダイゴくんにプライベートな事を尋ねられる

「{{kanaName}}ちゃんって彼氏いるの」

 それはいわゆる思春期に入り、友達に彼氏が出来始めた頃だった。まだ好きな人もいないわたしに年下のダイゴくんが突然そんな事を聞いてきた。
 
「え、なっ、何、急に」
「{{kanaName}}ちゃんはそういう話しないからさ、気になった」

 ダイゴくんとは年もスクールのクラスも違うけど放課後によくバトルをする仲で、特訓相手だった。友達とはちょっと違うし、何より男の子、当然恋愛話なんかしたことない。するつもりもなかった。
 
「もしかして…、いない?」

 聡明な青い瞳がわたしの表情から答えを読み取る。ダイゴくんの薄桃の唇がほんの僅かに弧を描いた。その瞬間、わたしは考えるよりも先に大きく口を開いて喉が痛くなるのも構わず大声を出していた。
 
「ダッ、ダイゴくんには関係ない!」

 その時のわたしは、まだ恋愛をしていない自分が何だか恥ずかしくて、友達がちょっと自慢げに片思いや彼氏の話をするのが羨ましくて、恋をする友達と比べて自分は劣っているようにすら感じていた。だからニヤリと笑ったダイゴくんにも馬鹿にされたと思って反射的に怒鳴っていた。
 
「もう帰る!」

 ボールから出したままのポケモンを急いで片付け荷物を引っ掴む。ダイゴくんが何か言っていたけど全部無視をして逃げるように家へと帰った。
 その日以降、どんな顔して会えばいいのか分からず避けていたらダイゴくんもわたしに声を掛けるのを諦め、そうしていつの間にかダイゴくんとの仲は終わっていた。
 
 
 互いの唇を啄むキスを繰り返す。柔らかな唇を自分のそれで挟んでちゅ、ちゅっ、と音を立てて離す。気持ち良くて抱きしめる腕に力を込めると同じように抱きしめ返され心臓がトクンと跳ねた。
 何度目かのキスの後、じぃっと見つめ合ってどちらともなく舌を絡めた。柔らかくて熱いそれが歯列をなぞり、頬の内側を舐める。真似をしようと舌を伸ばすけれど、わたしの舌は簡単に絡め取られじゅうっと吸い付かれた。わたしはされるがままだった。
 舌がビリビリしてもっとそれが欲しくなって、さらにぎゅうっと抱き着く。肉厚の舌がわたしの口の中を暴れ回り、溢れた唾液が口の端から垂れる。それでも構わず舌を絡め合わせ、わたしはこの快感の時間を、頭を真っ白にして貪った。

「ふふっ、可愛い顔してる」

 そう言って笑うのはダイゴくん。そう、あのダイゴくんだ。
 ダイゴくんとの再会は本当に偶然だった。たまたま友達と入ったバーに居て、ダイゴくんにも連れが居たはずなのに気付いたらわたしの隣に座っていた。その後わたしを家まで送ってくれたダイゴくんがもう少し一緒に居たいと言って、そうして今、わたしはリビングでダイゴくんとキスをしている。

「ねぇ{{kanaName}}ちゃん、」

 ちゅっ、と可愛いリップ音を立ててダイゴくんがほっぺたにキスをする。ひとつ、ふたつ、みっつ、お酒とダイゴくんのせいで赤くなった両の頬に唇が触れる。キスのたびに心臓がドクンと鳴って、擽ったさともどかしさが腹の奥底に募ってゆく。
 ダイゴくんの背中に回した手がスーツごと握りしめるように拳を作る。でもダイゴくんの身体にぴったりのスーツは彼の身体から離れることはなくて、その代わりわたしの爪がダイゴくんの背中を引っ掻いていた。目を合わせたダイゴくんがほんの僅かに目を丸くして、けれどすぐに頬は綻んだ。

「{{kanaName}}ちゃんって彼氏いるの」
「えっ、」

 ダイゴくんの青い瞳は雲一つない晴天を閉じ込めたように澄み渡っていて、それがわたしをじっと見つめる。ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうで、咄嗟に視線を逸らした。ダイゴくんの問い掛けにドキリとしたせいもあった。

「今ならボクにも関係あるよね」

 その言葉にハッとして視線を戻す。偶然かと思ったけれどダイゴくんもちゃんと覚えているんだ、あの日のわたしとの会話を。
 あの時と同じ聡明な青い瞳をキラリと輝かせてダイゴくんが返事を待つ。今なら分かる、あの日のダイゴくんは決してわたしを馬鹿にしておらず、それどころか対極の感情を向けてくれていたんだと。そしてそれはきっと今も同じで。

「い、ない……、です」

 ダイゴくんの整った顔にとろけた笑みが浮かぶ。あの時のダイゴくんと同じだ。
 ダイゴくんは呟くように「良かった」と安堵して、改めてわたしを真っ直ぐに見つめると「{{kanaName}}ちゃん、」わたしの名前を呼んだ。

「{{kanaName}}ちゃんは気付いてくれなかったけど、ボクはずっときみが好きだったんだ。今もこの気持ちは変わらない。だから今度はもう絶対に逃がさない」

 ダイゴくんの熱い眼差しがわたしの体温を上げていく。身体の奥で血がマグマにでもなったように全身が熱くて、きっと顔も耳の縁まで真っ赤になっている。心臓はバクバクと胸を突き破りそうで、嬉しくて恥ずかしくてダイゴくんの顔を見てられない。

「好きだよ、{{kanaName}}ちゃん」

 耳元でダイゴくんが囁く。熱い吐息が耳をくすぐって、あっと甘い息を吐いた口は閉じる間もなくダイゴくんに塞がれた。