テレビに飽きた夢主と見続けるダイゴ
──これ、つまんないや。 ドラマが始まって五分、早々に興味を失ったわたしはソファの背もたれに体を預け隣へと視線を向けた。 けれどわたしと違ってダイゴさんには『当たり』だったらしい。浅く腰掛けた体は真剣にテレビを見ていて、じいっと自分を見つめる視線にも気付かない。 ──つまんないなあ。 そう思いつつ、そんな事もたまにはあるかと胸につかえたもやもやを飲み込む。それに、もしかしたら今から面白くなるかもしれない、期待を込めてもう一度テレビに意識を向ける。 画面に映るのは恋愛ドラマ──豪華な出演者達で画面はとても華やかで、大人向けらしい内容は少し過激で刺激的だ。今も画面の中では美男美女が濃厚なキスをしている。 でも、それだけなのだ。過激で豪華、それだけ。ドラマのストーリーはありきたりの平凡で、面白くない。集中力はたちまち切れて「ふあぁ…、」とおおきな欠伸が出てしまう。 それでもダイゴさんが見てるから、と画面を眺めていたら画面が切り替わった。そこは昼日中にも関わらず分厚いカーテンを閉じた薄暗い寝室だ。 あっ、と思った時にはヒロインの大人気アイドルが実力派俳優と抱き合ってベッドへと倒れ込んだ。そういえばこのドラマは濡れ場が見所だと宣伝していた覚えがある。 とはいえ突然始まった情事には困りものだ。色気を含んだ吐息にしっとりとしたリップ音、とても演技には見えない手付きに気まずくなる。 このドラマを見たいと言ったのはわたしだけど、チャンネル変えちゃおうかな。何となくそういう気分にもなれなくて居心地も悪い。それにダイゴさんだって流石にこのシーンには困ってるだろう。そう思ってリモコンに手を伸ばしつつダイゴさんを確認する。 けれど瞳が映した光景は、いまだまっすぐにドラマを見つめるダイゴさんの横顔だった──日焼けをしてない白い頬はほのかに赤らんで、氷の涼やかさを湛えた瞳はその奥に熱を帯びている。気付けば体が勝手に動いていた。 「……ねぇ、」 はっとして振り向いたダイゴさんの視線も返事も無視をして胸元の深紅のアスコットタイを引っ掴む。そして乱暴にぐいっと引っ張るとその上体がわたしへと傾いた。 久しぶりに合った両の瞳。何か言いたげに少し開いた口。今だ、わたしは狙いを定めると揺れる的へ一直線に距離を縮めた。ちゅっ、と唇が重なったのはその直後だった。 「わたしよりこのアイドルの方がいいの?」 鼻の下伸ばしすぎ。最後に捨て台詞を吐いてアスコットタイを離す。睨み付けた瞳もぷいっと逸らした。 子供っぽい嫉妬だと、自分でも思う。 でも真剣にドラマに見入る瞳は不愉快で、ちょっとだらしない顔でアイドルを見つめるダイゴさんに腹が立ったのは紛れもない事実。だから仕方ないでしょ、ちゃんと意思表明しとかなきゃ──なんて必死に自分を正当化して言い聞かせていたら。 突然、体に衝撃が走る。それがダイゴさんに押し倒されたんだと理解した時にはわたしの背中はソファの座面にぶつかって視線は天井を向いていた。えっ、と思う暇もなく視界はダイゴさんでいっぱいになって大きな手のひらが頬を包み込んだ。 見上げる先の青い瞳が瞬きもせずわたしを見下ろす。太陽の下では一等星のように煌めく瞳も影の中だと薄暗い。よく見えないそれが何だか怖くて、けれど少し視線を下げると唇は緩やかな曲線だったから、胸の高鳴りがどんどん早く大きくなっていく。 不安と期待で視線が揺れる。じりじりと近付く瞳の色を知るのが怖くて固く目を閉じた。なのに「{{kanaName}}、」と名前を呼ばれたらまぶたが勝手に開いて、わたしの大好きなアイスブルーがとろりと蕩けた。 きゅうんっと胸がときめいて期待を込めて目を閉じる。唇が触れてすぐに離れて、熱い吐息を吐いた瞬間、わずかな隙間から舌が滑り込んできた。びくりと体が小さく震えたものの、宥めるように舌が絡み付いてあっという間に絆されていく。いつのにか小さな嫉妬は跡形もなく溶け、胸の中は溢れるほどの快感と幸福で満たされた。 どれくらいそうしていたのか、息が苦しくなったのを見計らうようにダイゴさんが体を起こす。わたしと違って息こそ上がってないけれど前髪が乱れている。それを乱雑に掻き上げながら青い瞳でわたしを見下ろした、わざとらしく眉間にしわを寄せていかにも怒った顔をして。 「このドラマでやってる事を{{kanaName}}にしたらどんな可愛い反応だろう…って考えてただけだよ」 失礼しちゃうな。ふん、と鼻を鳴らして両手は首元へ。わたしが乱暴に引っ張ったせいでアスコットタイもシャツも乱れていた。滑らかに指が動く。さっきまで頬を撫で唇が離れないよう顔を固定していたその指は、器用に襟元を直した。わたしは見ているだけなのに、何だか妙にドキドキする。ダイゴさんはどうなんだろう、今ダイゴさんは何を思っているんだろう。 倒れたままのわたしからはダイゴさんの顔がよく見えない。けれどわずかに見えた口元はどうにかへの字を保っているものの、次の瞬間には嬉しそうに口角を上げていた。