今日だけだから

バトルで惜敗して落ち込むダイゴを年上夢主が慰める。

ダイゴくんの元気がない。さっきからソファで項垂れて顔も上げてくれない。わたしが「ダイゴくん」とすぐ隣に座っても顔を反対側に逸らして返事は返って来ない。

「ダイゴくん」

 ぐっ、と自身の膝を掴んでいた手にわたしの手を重ねる。ダイゴくんが小さく息を呑んで一瞬だけこちらを向く。いつもキラキラと輝くアイスブルーの瞳は翳っていて自信も何処にも見当たらない。
 こんなにもしょんぼりしたダイゴくんを最後に見たのはいつだろう。確かあれはスクールの実技大会、そういえばあの時も状況はそっくりだった。

「ダイゴくん、残念だったね」

 イッシュのホドモエシティで開催されたポケモンワールドトーナメントには各地方からチャンピオンが招かれ白熱した試合を繰り広げた。そんな中ダイゴくんは初戦から調子が良くて、手強い相手にも不利な相性にも勝ち星を挙げていた。
 ダイゴくんの試合を生で見るのは久々だったわたしはとても興奮して、ダイゴくんが相手のポケモンを倒す度に相棒のジグザグマを抱きしめて大きな声で応援をしていた。
 トーナメント最後の試合の決勝戦、わたしはぎゅっと両手を握ってダイゴくんを勝負の行く末を見守った。終わった今あの試合を振り返ると、ダイゴくんは変に力が入っていたような気がする。そのせいで指示が一瞬遅れ、判断に迷いが生じていた。
 それでもダイゴくんは強かった。互いのポケモンは相棒の1匹ずつとなり、最後の攻撃はとても激しく目を開けていられなかった。
 フィールドから巻き上がる砂煙の中でがくんと巨体が倒れる。倒れたのは、ダイゴくんのメタグロスだった。

「でもかっこよかったよ」

 確かに負けてはしまったけれど、ダイゴくんが強いことには変わりない。未だ俯いたままのダイゴくんの頭を昔みたいによしよしと撫でてあげる。実技大会で負けて悔しがってた時もこうやって撫でてあげたっけ。あの時のダイゴくん、本人には申し訳ないけれど年相応な表情で感情を剥き出しにして可愛かったと覚えてる。

「ちょっ…、{{kanaName}}ッ!」

 物音に驚いたニャースのようにビクリと体が跳ね上がってやっとダイゴくんがこちらを見る。トーナメント会場からこのホテルに戻ってくるまでろくに目を合わせてくれなかったから、何だかずいぶん久しぶりに感じる。

「ダイゴくんが負けず嫌いなのは昔から知ってるけど、今はわたしのことを一番に考えてほしいな」

 未だ惜敗の悔しさを滲ませる顔が気まずそうに視線だけを逸らす。元気のないダイゴくんも珍しいけれど、こんな風に子供っぽいダイゴくんも懐かしい。チャンピオンになって恋人になってからは年下の可愛らしさを封印してかっこいいダイゴくんしか見せてくれなかったから、ダイゴくんには申し訳ないけれどちょっと嬉しい。

「ご、ごめん……でもせっかく{{kanaName}}が応援してくれてたから…っ、どうしても勝ちたかったんだ」

{{kanaName}}にはかっこいいボクだけを見せたいから。そう言ってダイゴくんが視線を戻す。揺れる瞳は少し不安そうで、赤くなった頬からは緊張感が伝わってくる。可愛い、ダイゴくんが描く理想の彼氏像からは恐らくかけ離れた今の彼の姿に頬が緩んでいく。

「ダイゴくんはいつでもかっこいいよ。試合には負けちゃったけど、その後笑顔で握手してたダイゴくんはすごくかっこよかった。わたし、好きだよ」

 好きの一言に耳を赤くしたダイゴくんに顔を近付ける。長いまつ毛が数えられるほど顔を寄せて、綺麗な瞳と見つめ合うとゆっくり瞼を閉じて何かを言おうとする唇を自分のそれで柔らかに塞ぐ。
 キスの形になった唇は柔らかくて何だか甘い。一度だけじゃ足りなくて二度三度と唇を重ねると次第にダイゴくんの意地も緩んでいき、そっと上唇を食むと「んっ…、」と気持ち良さそうに吐息を零した。ダイゴくん、可愛いなぁ。暖かい気持ちがどんどん胸に溢れていく。
 ふうっ、と息を吐いて体を離す。気恥しそうに視線を逸らしたのはダイゴくんの方で、その姿はやっぱり可愛くて仕方がない。我慢が出来ず、ついもう一度ダイゴくんの綺麗な銀の髪を撫でた。

「ねえダイゴくん、わたしの前でまで気を張らなくていいんだよ、今日は昔みたいにわたしに『年上のお姉さん』させてよ」

 ダイゴくんは大人しく頭を撫でられたまま瞳を揺らす。ダイゴくんの中で天秤が揺れているのが分かる。かっこいい恋人でいたいダイゴくんとそうじゃない自分を受け入れられたいダイゴくんが悩んで悩んで揺れている。だったら、とわたしは普段のダイゴくんを真似てくっつきそうなほど耳元にくちびるを近付けて囁く。

「わたしの為に頑張ったダイゴくんのこと、いっぱい甘やかしたいな」

 とどめに耳にちゅっとキスもしてダイゴくんの瞳をじっと見つめる。青い瞳がわたしの方を向いて頬が赤く染まっていく。そのまま耳の先まで真っ赤にするとぎゅっと目を閉じ覚悟を決めたようにゆっくりとまぶたを開けた。

「{{kanaName}}がそこまで言うなら、今日は甘えてあげるよ。でも今日だけだから」

 ダイゴくんの視線が一瞬だけ壁の時計を見る。明日はまだ遠い。言葉こそ不承不承だけど本心はそうでもないようだ。わたしは寄り掛かるダイゴくんを優しく抱きとめ背中に腕を回して目の前の赤い頬にそっと唇を寄せた。