コンビニ店員夢主と常連ダイゴ
今日は待ちに待ったコンテスト、わたしは逸る気持ちをおさえて開場を待つ人々の列に並ぶ。 大ファンのミクリさんが出場するこのコンテスト、チケット争奪戦を何とか勝ち抜きバイト代を全部つぎ込む勢いでS席をゲットした。しばらくは財布の中が寂しいけれど今日のこのコンテストを生で見れることを思えばちっとも辛くない、と思うようにしている。 チケットを握りソワソワしながら開場時間を待っていると、まだ時間になっていないのに列がそぞろに動き出した。ぼんやりしていたわたしは歩き出した人達に押されてぐらりと体が揺れ、その拍子に命よりも大事なチケットを手放してしまう。 「あっ……」 反射的にひらりと舞うチケットに手を伸ばすけれど空を掴むばかりで、チケットは風に舞いながら地面へと落ちる。誰かに踏まれる前に何としても回収しなければ、列から飛び出してぐいと手を伸ばす。 「ちょっ、それわたしの……」 しかしわたしの手が届くよりも先にチケットは近くにいた人物の手中に収まって。 「これ、君の……あぁ、君は」 そこにいたのはよくよく見知った人物、わたしが密かにチョコ王子と名付けたイケメンのお兄さんだった。こんな所で会うなんて、思わずチケットの事を忘れてぽかんと間抜けな顔になってしまう。 「良い席だ、君はミクリのファンなのかな」 「えっと、あっ、はい」 王子はわたしの手を包むようにチケットを返す。わたしもレジでお釣りを渡す時にこんな風に手を添えるけど、こんなイケメンに同じことをされるとドキリとしてしまう。本当にイケメンは何をしても格好がつくんだから。 「ちょっとしたツテがあるからよければサイン貰ってこようか」 こんな所でチョコ王子に会うだけでも想定外なのに、このイケメンは今なんて言った。ミクリさんのサインをくれると言ったように聞こえたけれど聞き間違いに決まっている。 「名前、教えてもらってもいいかな」 本当に? 冗談ではなくて? 「{{kanaName}}、です」 思わず声が上ずる。タチの悪い嘘の可能性もちらりと脳裏を過ぎったけれど、こんなイケメンがミクリさんを使って何かをするとも思えなかった。それにこの人はいつだって爽やかに買い物をしていくし、店員の私にも丁寧に接してくれている、悪い人ではないはず。 「うん、{{kanaName}}ちゃんだね」 ふっと見せた笑顔はこちらが照れるくらい綺麗で、心臓がいつもより随分と速いリズムでとくとくと動く。 「あ、りがとうございます、えっと…」 「ダイゴ、僕はダイゴだよ」 「ありがとう、ございます…ダイゴ、さん」 じゃあまた、そう言って踵を返したチョコ王子はあっという間に人の波に消えてしまう。 暫くしてわたしは重大なミスに気がつく、サインを受け取るにもお礼をするにも連絡先を聞いていないということに。 (まあ、次にお店に来た時に聞けばいいか) そうしてわたしは心を弾ませコンテスト会場へ入場した。