その悋気は誰のもの

ダイゴの話す見知らぬ相手に嫉妬する夢主

 最近ダイゴにお気に入りのトレーナーが出来た。
 珍しいけれど今までにも何度かあったから特に気にも留めず楽しそうに語るその言葉に笑顔で相槌を打っていた。
 それが嫉妬に変わったのはいつだったか。
 今までならすぐに失われた興味が、今回のお気に入りはまだまだ関心が尽きないようで、何処そこのジムを突破しただとか事ある毎に少年のように瞳を輝かせて喋っている。私のこと、そんな風に誰かに話すことはないくせに。

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「女の子なのに、なんて言ったら彼女に失礼だけど本当に筋はいいと思うんだ」
 その言葉に思わず飲んでいたミルクティーを吹き出しそうになる。ごほごほとむせた私は涙の滲む瞳でダイゴを見つめる。楽しそうに話していた件のトレーナーが女の子だったなんて聞いてない。てっきり男の子だとばかり思ってた。だってトレーナーなら男の子の方が多いじゃない。
 そこからは嫉妬に加えて不安も仲間入りしてわたしを悩ませた。
話を聞く限りそのトレーナーは少女で、本来なら意識する必要のない存在なわけで。けれどその子は私と違ってトレーナーで、それはチャンピオンであるダイゴとは切っても切れない繋がりだ。
 羨ましい、でも年端もいかない少女を羨んでるなんて知られるのは恥ずかしい。私は絶対にバレてはいけないと拳に力を込めた。

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「僕に言いたいことあるんでしょ」
 先ほど焼いたシフォンケーキは上手く膨らんでいて、ここ数回で一番の出来だった。それに添えたクリームもいい塩梅に仕上がっていてひとりで全部食べてしまいたくなる。
 そんな会心のシフォンケーキに舌鼓を打っていたら、組んだ両手に顎を乗せ不気味に笑ったダイゴが問いかけてきた。えっ、と意識を彼に向けると笑っていない瞳が私に微笑んでくる。
「ボクのことで悩んでる{{kanaName}}はいつもより美味しいケーキを作るから」
 その指摘にはっとしてこの前の会心のケーキはいつだったかと思い返す。たしかあまり連絡をくれないダイゴにモヤモヤとしていた頃じゃなかったかしら。
「ちゃんと言えるよね」
 案外私のことをちゃんと見ているんだと嬉しくなる反面、だったら私が何に対して不満を抱いているのかくらい分かってくれてもいいじゃないと思ってしまう。だから私はフンと鼻を鳴らしてクリームをたっぷり掛けたシフォンケーキを食べることへ専念する。
「意地っ張りな{{kanaName}}も可愛いけれど、ボクは素直なきみの方がいいと思うよ」
 フォークを握る手を掴まれ、あっと声を上げた時には最後の一口がダイゴの口の中へと消えてしまっていた。その間もやっぱりダイゴは笑っているけれどその瞳の奥には何か不穏な感情も隠れている。
 こういう時のダイゴにはあまり逆らわない方がいい。けれどこちらにも意地があるわけで。
「何でもない」
「隠し事はよくないよ」
 ダイゴは貼り付けていた笑みを剥ぎ取り鋭い視線でこちらを見つめている。私が何も言わないからってそんなにも怒ることではないじゃない。これが心変わりしたといった類の話なら分からなくもないけれど、ちっともそうじゃないんだから。
「そう……じゃあボクも一ついいかな」
 そこで初めて彼の怒りの原因が、私が話さないからではなく別にあるのだと気がついた。私は少しだけ身構える。
「最近もまだ例のお弁当屋に通ってるのかい」
 それは少し前から度々利用しているお弁当屋さんで、そこの店員さんがなかなか格好いいからつい何度も足を運んでしまってる。勿論そこのお弁当が美味しいからというのが一番の理由で、そういえばダイゴにもその話をしたんだっけ。
「あのイケメンの……でもどうし――」
「恋人の前で異性に熱を上げるのは感心しないんだけど、それは{{kanaName}}もよく分かっただろう?」
 私の言葉を遮ったダイゴはそれはもう不機嫌極まりない顔で拗ねていた。
 まさか、それを根に持ってお気に入りの女の子の話をしてたって言うの。だったらこんな回りくどいことしないで直接言ってくれたらいいのに。
「へ、ん、じ、は」
 言いたいことはいくつもあったけど、ダイゴも人並みに嫉妬することが分かって何だか可愛らしく見えてきたから、今回は素直に返事をしてささやかな嫉妬に手を振った。