ダイゴと夏祭りに行く夢主
「こんばんは」 何度目か分からない挨拶に私はうんざりとしていた。 *** 花火を見ようと誘ったのはテレビで花火大会の特集を見たからだった。予定を確認するとちょうど私もダイゴも空いていて、洞窟に篭られる前にその日付を押さえて二人で花火大会へとやって来た。見るだけなら直接会場へ行くよりホテルを取る方がいいよとダイゴは提案したけどそれじゃあ屋台を楽しめないし浴衣だって着れないからと即座に却下した。 当日、つまり今日、私はルンルンと鼻歌なんか歌いながら花火大会の支度をして約束の10分前には待ち合わせ場所に着いていた。ダイゴは何処だろうと姿を探すと知り合いと思しき人物と挨拶を交わす彼を見つけた。 「待たせたね{{kanaName}}」 「ちょうど来たとこ、今のは」 「デボンの取引先さ、彼も花火を見に来たらしい」 テレビで特集されるような有名な花火大会だ、知り合いの一人二人に会うことも何ら不思議ではない。その時の私は特に深く考えずに「そうなんだ」と相槌を打った。 さて、浴衣デートの出鼻は何となくくじかれたような感じになってしまったけど気を取り直して花火会場へと向かう。念を押した甲斐あってダイゴも今日は浴衣を着てくれている。後でたっぷりと写真を撮ろう。 普段と異なる服装に久々のデートで私の気分はとても良くなっていた。だからいつもなら人目を気にして出来ないような、腕を組んで歩くなんてことも大胆に行えてしまって。そんな私にダイゴは少し驚いたようだけどすぐに笑顔になってくれた。 そうして二人はたまの休日を楽しく過ごしたのだった、となるはずだった。けれど現実はそれほど平坦ではない。 「おや、ダイゴさんではないですか」 これは三度目の呼びかけ。私は貼り付けた笑顔を必死でキープさせながら一歩後ろに下がる。腕を組んでいたのも遠い昔のことで、今の私はまるで付き人のように黙って主人の指示を待っている。ダイゴも困った顔をしているものの相手を邪険にすることは出来ず、可愛い彼女を放って繰り広げられる中身のない会話をどうにか終わらせようと慎重に言葉を選んでいた。 ダイゴに非がないことも、私が子どもみたいに不貞腐れていることもよく分かっている。それでも面白くないという事実はどう理屈をつけた所で消すことが出来ない。私はただ待つことにも飽きてふらりと近くの屋台へと足を向け、一人で唐揚げを買い、一人で冷やしパインを買い、一人でたこ焼きを買った。それらを無言で胃の中へ収めながらダイゴを待つ。これならダイゴではなく他の誰かと来た方がましだったかもしれない。つるりと地面へ落ちたたこ焼きに詫びながらぼんやりと考える。 少し進んでは足止めされ、足止めされては少し進み、ダイゴは私にごめんねと謝るけれど私が欲しいのはそんな言葉じゃない。 「こんばんは」 どうして誰も彼もダイゴを見かけると声を掛けるのか。少しは隣にいる私に気を使ってくれたっていいじゃない。私はいよいよ腹を立てる。でも何か行動できる訳ではなく、出来ることは苛々を落ち着かせようと屋台を見るくらいだった。 「まさかこんなに呼び止められるなんて――」 ようやく解放されたダイゴがまたも無意味に謝ろうとするからその顔にべしりとそれを押し付けた。驚いたダイゴが少し間抜けな声を出し、それをまじまじと見つめる。 「ミシロクリムゾン、知らないの?」 「……よくこんなの見つけたね」 「それ付けて顔隠して」 近くの屋台で売っていたお面を付けたってきっとダイゴはこの後も声を掛けられるし私はそれを後ろで黙って見つめる事になるんだろう。それでもせめて何かして抗いたかった。 こんな事ならもっと小さな花火大会を選べば良かった。花火も屋台も楽しみではあったけどそれより何より楽しみにしてたのはダイゴと一緒に過ごす時間だったのに。どこか疲れたような表情のダイゴに申し訳なさも感じて、ついに抑えていたため息を吐いてしまった。 「{{kanaName}}、今日はお祭り気分はここまででも許してくれるかい」 手持ち無沙汰だった手にダイゴのごつごつとした手が絡まってくる。こっち、とダイゴが歩き出したのは会場とは反対方向、今来た道を戻る訳で、私は意味が分からず「どこ行くの」叫ぶように質問を投げた。 「ホテル取ってるから」 何それ、少し前を歩くダイゴの顔はお面で見えない。でもいつもより握る手に込められる力は強くて熱っぽい。 「これ以上ここにいたら{{kanaName}}との時間が奪われてしまうよ」 お面を上げてこちらを向いたダイゴが照れたように笑っている。私もそれに釣られてへらりと笑った。