デボン社員(モブ)視点→夢主視点 仕事するダイゴと気遣う夢主
会議開始3分前、web会議用アプリを立ち上げる。ディスプレイには会議参加者が一面に映し出される。が、ひとつだけ異様な映像が映っている。 画面いっぱいにマリル――正確に言えばマリルのぬいぐるみ――が映っている。誰の画面だと確認すると信じられないことにそれはツワブキダイゴ、我らがチャンピオン様だ。何だこれは。慌てて同僚にチャットを送る、ダイゴさんの画面は誰かにハッキングでもされてるのかと。 《5分くらい前に誰かがパソコンの前に置いてったの!》 ツワブキダイゴは誰よりも早く会議の準備を行い――誰も彼より先になったことがないと聞いている――会議が始まる直前まで席を外している。彼の人を寄せ付けない冷たい視線が苦手だからそれは有難いんだが今日は何があったんだ。マリルのぬいぐるみを自分の代わりに置くなんてキャラじゃないことをするな、我々部下が反応に困ってしまうだろう。 と、マリルが動く。ツワブキダイゴがそれを横にどけて「悪いね、開始を少し遅らせてもらうよ」カメラに向かってそう告げた。 なんだ今の顔。ツワブキダイゴも人並みに焦った顔をすることが出来るのか。壁を映すその画面をぽかんと眺めていたら同僚からチャットが届く。 《マリル置いたの、多分女だよ》 《ちらっと手が映って明らかに女だった》 何だそれ、つまりツワブキダイゴは彼の彼女がイタズラで置いたマリルのぬいぐるみに焦ったということなのか。あの男もちゃんと人間だったのか。 「すまない、待たせたね」 席に着いたツワブキダイゴはいつもの完璧な顔をしている。先程見せた焦り顔などまるでなかったような真面目な顔立ちだ。 しかしそれは一瞬にして崩れた。ひょこ、と画面端――ツワブキダイゴからすればキーボードの端だろうか――に再びマリルが現れたのだ。ツワブキダイゴはそれを置いたであろう人物の方を向きムッとした顔を作って口を開き、はっとカメラへ視線を動かした。あと一瞬我に返るのが遅かったらツワブキダイゴが人間らしく彼女に文句を言う姿が拝めたのに、バレないように俯いてため息を吐いた。 「30秒だけ待ってほしい」 言うなりツワブキダイゴは立ち上がって画面から消えた。足音が聞こえ、乱暴にドアが閉められる音が響く。何だ何だ、今日はやけに人間らしい姿を見せてくるじゃないか。今まで取っ付き難い男だと敬遠していたけど今後は今日のことを思い出して上手く付き合えそうな気がする。再び戻ってきたツワブキダイゴの顔に浮かぶ照れを眺めながら欠伸をひとつ噛み殺した。 *** 今日は朝からweb会議があるとダイゴに言われた。ダイゴは早々にパソコンを立ち上げ準備を済ますと優雅にコーヒーを飲み始めた。わたしは先日彼にプレゼントしたマリルのぬいぐるみを抱えながら半分寝ぼけた頭でぼんやりとパソコンを見つめる。そして誰も映っていない画面に思いを馳せ、その寂しい画面に華やかさをとマリルを置くことにした。わたしがカメラに映ってしまうとダイゴに迷惑がかかるからそれだけは気をつけてそっとマリルを置く。うん、ばっちりカメラの正面に置けた。 しばらくしてダイゴがパソコンの方へと向かう。私は邪魔をしないようにソファにごろりと横になる。ダイゴに合わせて早起きしたけど今日はお休みなんだもの、ぐうたらしちゃうのだ。 なんて考えていたのに「{{kanaName}}、」目だけ笑ってない笑顔のダイゴがマリルを押し付けてきた。 「これは、いらない」 「はぁい」 受け取ったマリルはしかしダイゴにプレゼントしたもので、このくりくりとした目がたまらなく可愛らしい。笑顔のひとつも見せずに淡々と会議を進めるダイゴには必要な存在よ、きっと、たぶん。こういうので他の人たちと距離を近づけた方が絶対良いに決まってる。 会議を進めるダイゴにバレないように静かに近づいて、そっとマリルを差し込む。でも残念、すぐに気づかれてしまった。ダイゴは怒った顔を私に向けて、カメラのことを思い出して「30秒だけ待ってほしい」と会議参加者に吐き捨てると私の腕をぐいと掴んで部屋の外に放り出した。