溶けて消えて再び現れる

※すれ違い夢
片思いを諦める夢主と親切なダイゴ

――好きな人に全然意識してもらえなくて。
 すっかり氷の溶けたアイスティーのストローをくるくると回す。びっしょりと汗をかいたグラスを掴み水っぽさですっかり不味くなったアイスティーを吸うとその味気なさに嫌気がさした。こうなるまでに飲むことは出来たのにそうしなかったのはわたし、溶けるのをただ見てただけ、もう元には戻せない。
――もう諦めた方がいいのかなぁって。
 何かと理由を付けて話す機会を増やしてみても、もう一歩を踏み出す勇気はついぞ出せなかった。そのくせにこうやって諦める宣言だけは淀みなく言葉になる。
 隣に座るダイゴさんはぽつぽつとしか喋らないわたしを急かすことも耳の痛くなるような正論を説くでもなく優しさの滲む声で頷いてくれる。その優しい音に泣きそうになるのを堪え、この叶うはずのない恋心をゆっくりとしかし確実に溶かしてゆく。そうして目の前のアイスティーのようなすっかりぼやけた想いを飲み込んでしまおう。すっかり空になった入れ物に、今度は別のものを注いでいけばいい。
「伝えないと伝わらないよ」
 その声に隣を向けばダイゴさんの真剣な横顔がそこにあった。それはわたしに向けられた言葉のようでまるで違う誰かへの言葉のようにひどく遠くに感じた。
 ダイゴさんの言葉を舌で転がす。それは何度も聞いた言葉で、その度にじわりと溶け消えゆく心をたよりなく繋ぎ止めてくれていた。でもそれも今日で終わり。わたしの心はもう溶けてしまってどうしようもないもの。
――言っても困らせるだけだから。
 水っぽくて本来の美味しさをどこかへやってしまったアイスティーはすっかりぬるくなっていた。それをストローでかき混ぜると小さな渦が出来る。正しく力を加えればこんな色水もどきであっても何かの形を取ることができて、わたしは少しだけ笑顔を浮かべる事ができた。それでも今のわたしは笑顔の練習をしないとまともに笑うことも出来そうにない。
 グラスの中の渦は静かにうねりを増してゆく。溶けて何もかもなくなったはずなのに、わたしの耳にはまだ氷がグラスに当たって鳴る音が響いている。カラン、音が消えない。
「じゃあ最後に教えてほしいんだ、君の想い人は一体誰だったの」
 渦ごとアイスティーを飲み込む。
 ようやく空になったグラスを何故だか無性に割りたくなった。