休日にひとり釣りをする夢主と不機嫌なダイゴ
まだ昼時だというのにポケナビの充電が10%を切っていた。何でだろう、眉をひそめて考えるとそういえば昨日の夜充電せずに寝てしまったんだっけと自分のずぼらさに思い当たった。どうしよう、今日はモバイルバッテリーも持ってきていないのに。けれど万が一電源が切れた時の事を考えてみると意外と何とでもなりそうで、わたしは特に何もせずスマホを鞄へと戻した。 それから五時間ほど経った頃、何の釣果も得られず流石に飽きてきたのでピーコちゃんと遊ぼうかなと固まった体を伸ばす。するとその時一段と強い風が吹いて被っていた麦わら帽子が盛大に飛ばされてしまう。お気に入りなのに、慌てて追い掛けると目の前によくよく見知った人物がいるではないか。わたしはその人、ダイゴの目の前に落ちた麦わら帽子を拾い上げると「奇遇だね」なぜか不機嫌そうな彼に声を掛けた。 「ダイゴ、今日はお仕事だって言ってたけどどうして此処にいるの」 「{{kanaName}}を探しに」 ぶすっとした顔のまま、ダイゴがわたしを抱きしめる。普段のダイゴなら外で目立つようなことは絶対にしない。104番道路はそれほど人の行き来が多くはないけれど全くの無人という訳でもない。案の定虫ポケモンを探していた少年がビックリした顔でわたし達を見ている。その視線が何だか恥ずかしくてダイゴの腕を解こうとしたけれど思った以上に力を込めていてわたしの力では振りほどくことは不可能だった。 「あの、ダイゴ、人が見て」 「ポケナビの充電、また忘れてただろう」 「えっと、今それどう関係が」 ダイゴが首筋に顔をうずめるから髪が当たってこそばゆい。それに先程の少年の視線も気になる。どうしてこんな状況なのかさっぱりだったけど、何とかダイゴを宥めようとあれこれ言葉を掛けてみる。分かったから、一旦離れよう、落ち着いて、ねぇちょっと聞いてるの、それはだめ! 度が過ぎるダイゴを渾身の力を込めて突き飛ばす。ようやく解放されてひとまず安堵していると、まだご機嫌ななめのダイゴが不満げな視線を投げてくる。 「これ片付けて場所を変えましょ、ちゃんと話を聞くから」 またダイゴが奇行に走らないよう距離を取りながら折りたたみ式の椅子など釣り道具を指さして言ってみると「そうだね」と少し平静になったらしいダイゴが頷いた。わたしは麦わら帽子を被り直すと急いで片付けに取り掛かる。 ポケモンフーズも疑似餌も付けていない釣竿を回収し、椅子を畳む。そして暇だろうからと外に出していたラグラージをボールに戻すとダイゴに振り返った。けれどそこにいたはずの姿が見当たらない。何処に消えたの、慌てて当たりを見渡すと桟橋の先に立っている人影を見つけた。茜色の海の方を向いて珍しくポケットに手を突っ込んで、まるでらしくない。そんなダイゴ駆け寄って隣に並び「ここの夕陽、綺麗でしょ」わたしのお気に入りをひとつ教える。 「まさか、」 「ん」 「まさか、日が沈むまで此処にいるつもりだったのかい」 信じられない、と言わんばかりの顔がわたしに向けられる。今日のわたしはお休みの日で、だから何処にどれたけ滞在しようがわたしの自由なのに、まったくもって変なことを聞いてくる。僅かに首を傾げながらそうだよ、と返事すると盛大なため息を吐かれてしまった。 「それより、ダイゴは今日お仕事あるのにこんな所に来てていいの、怒られるんじゃないの」 「{{kanaName}}が休みだから片付けてきた」 それなのに。ダイゴが唇を尖らせる。 「いざ連絡したら繋がらない、おまけにボクとしたことが君が今日何をするか聞きそびれていた」 それで機嫌を損ねていたのか、わたしはようやくダイゴの不機嫌の理由が判明して小さく笑った。繋がらなかったのはきっと電池切れのせい、何も言わなかったのはまさかダイゴが無理やり仕事を片付けてくるなんて思ってもなかったから。だっていつもはそんなことしないんだもの。 「じゃあよく此処が分かったね」 「前に一度だけ、此処で釣竿を垂らしてのんびりするのが好きだって言ってたのを思い出したんだ」 それは随分と昔、話したかどうかさえ曖昧な記憶、さらに言うなら付き合う前の他愛もない雑談の中での一言で。そんな言葉まで思い出せるなんてダイゴはすごいねと素直に関心すると、 「{{kanaName}}の言葉は全部覚えてるよ」 真っ直ぐな視線がわたしの瞳を射抜く。くらりと酔ってしまいそうな瞳に思わず顔を逸らすと抱きしめられた。耳元で音を立てて鳴る心臓は心地よく、顔を上げれば赤い頬のダイゴがじっとわたしを見つめていた。 「照れてるの」 「……夕陽のせいだよ」 きっとあの少年はまだこちらを見ているんだろうな、そう思いながら触れる唇を受け入れた。