彼が走る理由

パーティに来た夢主とそれを探すダイゴ

 はい、と手渡されたのはリーグ主催の懇親会の招待状だった。わたしはこれっぽっちも関係者じゃないよと受け取るのを拒否すると「ボクの恋人なんだから関係者だよ」さらりと恥ずかしい言葉を返され半ば無理やりに押し付けられた。
 封を開け招待状を取り出す。箔押しの凹凸に指を滑らせて果たして本当にわたしは関係者なんだろうかと首を傾げる。そんなわたしの不審に気づいたのか、ダイゴは少し眉を下げて「知人も誘っていいパーティだから安心して」頬を撫でた。
「最初からそう言ってよ」
「{{kanaName}}はボクの“知人”でいいのかい」
「こういう時はそれでいいの」
 至極当然のように顔を寄せてくるダイゴを押しのけもう一度招待状へ目を落とす。日時と場所を確認して汚さないよう気をつけて封筒へと戻した。

***

『ボクは先に行ってるから』
 ダイゴからのメッセージに『着いたら連絡するね』と返信をする。恋人だから関係者の理論は恥ずかしかったけれど出来れば一緒に行きたかったな、なんて思ってしまったことは秘密にしてわたしも支度を済ませてパーティへと向かった。
 会場となっているホテルへ着くとそこは著名人ばかりで、わたしのような凡人が参加してもいいのかつい二の足を踏んでしまう。煌びやかな招待状から何となく察してはいたけれど、まさかここまで大層なものだったなんて。でもダイゴにとってこの規模は大した事ないのだろう。住む世界が違うなあ、思わずため息が零れた。
 会場へ入ればちらほらと見覚えのある姿も見えた。けれどダイゴの姿は此処からでは探せなくてまた一つ、ため息が零れる。
「おや、幸せが逃げてしまうよ」
 くすりと笑って声を掛けてきたのはルネのジムリーダーのミクリさん。ミクリさんはわたしにシャンパンを渡すとまたにこりと微笑んだ。
「ダイゴが君を探していたよ」
「あっ」
 そこでようやく彼に連絡をしていなかったことを思い出した。急いでダイゴに『着いたよ』とメッセージを送る。
「そのドレス、よく似合ってるね」
 この日のためにしっかりと準備をしたからお世辞でも褒めてもらえると嬉しくなる。わたしは照れを隠すようにシャンパンに口を付けた。{{kanaName}}はすぐに顔が赤くなるね、とお酒を飲む度にダイゴに言われるのを思い出す。その時にダイゴが必ず「かわいい」と言うから恥ずかしくて赤くなっているのだけど、当の本人はお酒のせいと信じててきっと気づいていない。今日もきっと後で言われてしまうんだろう、嬉しいような恥ずかしいような、ふわふわとした気持ちにさせられるんだ。
 ダイゴからの返事を待つ間ミクリさんを此処に引き止めるのも悪いと思ってひとりで待っていると伝えると「こんなに素敵なレディがひとりでいたら危ないじゃないか」綺麗な唇が美しい弧を描いた。思わず見とれてしまうその容姿から視線を引き剥がしてシャンパンを呷る。頬が自分でも熱くなっているのをひしひしと感じた。
「あまり飲みすぎるとあの男がうるさいんじゃないかい」
「別に酔いやすいわけじゃな――」
「やぁ{{kanaName}}、遅かったね」
 突然、肩に強い力が加わる。それが抱き寄せられたのだと気づくのに時間はかからなくて、わたしはどこからか現れたダイゴの顔を驚きながら見上げていた。ぱちりと合った視線はすぐさまミクリさんの方へと向けられる。わたしもつられてミクリさんを見れば耐えきれずにけらけらと笑い出すミクリさんがそこにいて。何が面白いのかとダイゴを見れば何故か頬を赤くした彼が空いた方の手で顔を覆っていた。
「あの、二人ともどうされて……?」
「あぁすまない、{{kanaName}}がとても愛されていると思うとつい微笑ましくてね」
 ダイゴの走って来た方からはわたしの姿が見えなかったんだろうね。くつくつと笑うミクリさんにダイゴが「説明をしないでくれるかな」耳まで赤くして首を振る。ようやく事の輪郭が見えてきて、わたしもつい笑みを零してしまう。心外だと言わんばかりの瞳がわたしに向けられた。
「さて、わたしはおじゃま虫のようだから退散しようか」
 そうしてわたしの目の前はダイゴだけになる。
「ありがとう、ダイゴ」
 ここはこの言葉が一番だと思ったから、わたしはめいっぱいの心を込め今までで最上の笑顔を振舞った。バツの悪そうな顔をしていたダイゴが息を吐く。そして「どういたしまして」吹っ切ったように爽やかに笑った。