いっそ時が止まってしまえば

仕事が終わるのを待つ夢主といじわるなダイゴ

 これだけ終わらせるから。そう言って持ち帰った仕事を片付けていたはずのダイゴさんは、いつの間にかすやすやと可愛らしい寝息を立てて眠っていた。最近何やら忙しそうなのは知っていたけれど居眠りしちゃうほどだったなんて、わたしは机から転がり落ちたペンを拾い上げてペン立てへと戻す。そして滅多に拝むことの出来ないダイゴさんの寝顔を堪能し、そして暇になってしまったことに気がついた。
 忙しいダイゴさんを責めるつもりはない。でも勝手に寝ちゃうダイゴさんを少し恨めしく思うのは話が別で。お仕事が終わるまで待ってると言ったわたしを少し茶化したように「{{kanaName}}はいい子だね」とダイゴさんは言ったけれど、本当にいい子だったなら放置されても不満なんて抱かず、疲労に負けて寝てしまったダイゴさんを心配するだろう。
 早く起きないかな、そう願いながら暇を潰すために用もないのにポケナビを弄った。


 30分程経った頃、ダイゴさんの体がびくりと震えひどく慌てた様子で顔を上げた。
「ごめん」
 その謝罪に「何がですか」と眉をひそめる。忙しくて疲れが溜まってるんだから仕方のないことだって分かっているんだもの、謝る言葉なんていらなかった。そんな言葉より、できればもっと他の言葉の方が何倍も嬉しい。
 ダイゴさんはぱちぱちと瞬きを繰り返し困ったような笑顔で「こっちへおいでよ」わたしを手招きする。わたしが側まで寄るとダイゴさんがぽんぽんと自分の膝をたたく。おいで、とダイゴさんは言うけれどそこに座るのはとても勇気が必要で。だから遠慮しようと一歩後ろへ下がったらいつの間にか腕を掴まれていて、そのままわたしの体は引き寄せられあっという間にダイゴさんの膝の上に乗せられていた。
「淋しいって顔、してたじゃないか」
「そんなこと、」
 心の内を言い当てられた恥ずかしさと、膝の上に座らされ抱きしめられる恥ずかしさで声が上ずる。それがダイゴさんの言葉を肯定しているようでますます体温が上がっていく。
「良い匂いがするね……」
 うなじにダイゴさんの吐息がかかり、思わず声が漏れる。このままだと身が持たない、全身に寄せられるダイゴさんの熱に染まりつつある体、それをどうにかよじる。
 けれどわたしが逃げようとすればするほどダイゴさんの腕の力は強くなり、耳元にダイゴさんの唇が寄せられ「逃げちゃダメだよ」蕩けそうな言葉とともに耳を食まれてしまって。出したくもない声が喉から零れ、それがダイゴさんの機嫌をさらに良くしてしまって敏感になった耳は執拗に攻め立てられる。
 窓から覗く外の景色はまだ鮮やかな青で、ダイゴさんにはお仕事が残っていて、それなのにそんな事全て無視をしてこの体をダイゴさんに委ねそうになる自分がいる。何も我慢することないよ、わたしの中の悪魔が囁く。だって彼もその気になってるじゃない、悪魔の言葉はひどく甘美で抗うにはひどく自制心が要る。それでも。
「お、お仕事しなくて、いいんですか」
 まだ日は高く夜はずっと先で待っている。カーテンを閉めるにはまだ早い。
「んー、{{kanaName}}が帰ってからでもいいかなって」
 器用に片手でボタンを外すダイゴさんの手を掴んだ。これで止まってほしいと思いつつ、ああでもわたしの手なんて振り払ってくれてもいいのにと隠しきれない劣情が手の力を弱めてしまう。
「じゃ、じゃあもう帰り、ます」
「ふぅん、帰れるんだ」
 つつ、と内腿を撫でられる。ダイゴさんの手が動く度に上げたくもない嬌声が吐く息と共に漏れ出てしまう。だめ、と言葉にしてもそんな拒絶の言葉は今さら何の効力もなくなっていて、ボタンは一つずつ外されて内腿をなぞる指はじわりと上ってゆく。
 ところが、突然その手が止まる。
「帰ってほしくないけど、{{kanaName}}が帰りたいなら仕方ないかな」
 今わたしを拘束するものは何もなく、大人しくダイゴさんの膝の上に収まっている必要はなかった。けれどわたしの体は動かない、動けなかった。
「ふふ、どうしたのかな」
 ボクはこの仕事を片付けないといけないんだけど。ダイゴさんは固まったままのわたしを立たせ、ペン立てに戻されていたペンを握った。そしてわたしからあからさまに顔を逸らして残ったままのお仕事を片付けにかかる。
 ダイゴさんはずるくて賢いからわたしが何かしない限りずっとこのまま仕事をするだろう。わたしがその事に気がついてることだって分かっているからダイゴさんからはきっと動かない。とても、ずるいおとな。
「…………ます」
 振り絞ったはずの声はちっとも音になっていない。それでも、ダイゴさんの気を引く程度の力はあった。手を止めてわたしへと視線を向ける。
「ま、ちます」
 こもる熱をこのままに帰れるはずなんてなかった。
 わたしが何とかその言葉を吐き出すとダイゴさんが綺麗な弧を描いて微笑んだ。
「{{kanaName}}はいい子だね」
 つい小一時間ほど前にも同じ言葉を聞いていた。その時も今のように頭を撫でられた。けれどあの時とは違って体は火照っていて、わたしを見つめるダイゴさんの頬も僅かに紅潮していた。