love in a steam

ダイゴに会えなくなって一人で夜を過ごす夢主

 今日のダイゴは会議だったか会食だったか或いは石探しだったか、とにかく何か予定があるからと夕食の約束は後日に延期になった。予約してくれたお店は友だちと行っておいでと言われたけれどダイゴと行きたいからとキャンセルをしてもらい、今日はまっすぐ家に帰ってゆっくりするよとダイゴに伝えた。
 宣言通り退社後は寄り道らしい寄り道もせずに家へと帰る。見たかった映画を借りて少しお高いワインを片手に玄関を開けるとリビングの方からコロコロとタマザラシが転がってきた。何処を転がってきたのか、タマザラシは今日もまた薄汚れている。きみのお陰で掃除機いらずだよ、ため息混じりに撫でてやれば皮肉の通じないタマザラシが勢いよくリビングへと転がってくから私からはいよいよ盛大なため息がもれた。
 ぽいぽいとヒールを脱いでタマザラシを追いかけるようにリビングへ入る。タマザラシはソファの周りをくるくる回っていて、私が近寄るとその進行方向を変えて後ろにぴたりとくっついた。
「……お風呂入ろっか」
 ぴょんと飛び跳ねたタマザラシはため息が出るほど可愛らしかった。


 暴れるタマザラシを何とか押さえつけてガシガシとシャンプーを泡立てる。少し温いシャワーを掛けて泡を落とすと湯船に投げ込んで、その間に自分の髪と体を洗う。本当ならもっとゆっくり入るつもりだったのに、今にも湯船から飛び出しそうになる青い球体が一緒だとゆっくり落ち着く暇もない。こんな時にダイゴがいてくれたらこの子の面倒見ててもらったりびしょびしょのまま家中を転がるのを阻止してもらったり出来るのに。またため息が零れた。
 タマザラシが飛び出さないように注意して浴室から出ると急いで体を拭いてバスタオルを巻き付ける。そしてタオル片手にドアを開けて跳ね出すタマザラシをキャッチした。ここでもし取り逃したらまたお風呂に入れなきゃならない。だから死んでも離してやるものかと力を込める。
 ガシガシと体を拭き、抱きかかえたままリビングへと向かう。疲れた、とソファに倒れ込むと押しつぶされた青い球が悲鳴を上げた。ソファと私に挟まれるのはあまり好きではないらしい。ずりずりと抜け出してまた掃除の甘い部屋の隅の方へと向かうから慌ててボールを掴むとタマザラシを仕舞う。クッション代わりにしようと思ってたけれど今日はやめておこう。
 タマザラシがボールに戻ってしまうと家の中の音が途端に少なくなる。しん、と沈黙が鳴ってひとりきりを肌で感じる。
「ダイゴは……まだ仕事なんだっけ」
 ひとりを追い払うように声を出したのに、余計にひとりを感じる。本当なら今頃ダイゴと過ごしてたのに、何度目か分からない大きなため息が零れた。
「そんなにボクが恋しいのかい」
 そんな自覚はないけれど今日の私は相当人恋しいみたい、聞こえるはずのないダイゴの声が聞こえてくる。
「それならもっとちゃんと態度で示さないと」
 確かにそう、ちょっと物分りのいい彼女を演じすぎたかもしれない。それにしてもこの声はやけにリアルでまるで耳元で喋りかけられてるみたい。そんなことありえ「聞いてるかい、{{kanaName}}」
 ソファに張り付いていた頬を引き剥がし顔を上げる。
 前、じゃない。後ろか、とぐるりと首を回すとそこには予定があるから会えないと断られたその人がいて、思わず「なん、で」と間抜けな声が零れていた。
「{{kanaName}}と過ごしたかったから」
 ちゅ、と可愛らしい音を立てる唇がわたしの額に落とされる。どうしてここにダイゴがいるの、仕事が、そもそも鍵が掛かってるのに、なんで、どうやって。
「シャワー借りるよ」
 ろくな返事になってないくせに話を切り上げようとするから慌ててスーツの裾を掴む。
「きみのタマザラシ、ボクが固いものを集めてると勘違いしてるみたいでね、あながち間違ってはいないんだけど、それでこの前寄った時に貰ったんだ」
 ポケットから取り出されたそれはここの鍵、「次に会う時に返そうと思ってたんだよ」なんて笑うけどどこまで本気なのか分からない。それにしてもタマザラシったらなんて余計な事をしてくれるんだ、あの子は一週間オヤツ抜きにしてやる。
「でも返すのは少し惜しいから、これを代わりに{{kanaName}}に渡しておくよ」
 裾を掴んだままの手を優しく解かれその中に落とされたのは何か固いもの。何処かの鍵。見覚えは、勿論ある。
「ボクを感じたくなったらいつでもおいで」
 じゃあシャワー借りるね、いつもの調子でにこりと笑うダイゴは呻く私を置いて浴室へと消えていった