リーヴァ

トクサネでダイゴと花火を見る

 花火の音がする。ダイゴが窓の方へ耳を澄ませながら呟いた。わたしも口を閉じてその音を聞こうと耳を澄ませると、ドンと打ち上がる音が聞こえたような気がした。
 窓を開けて何か見えないかと見渡すとちょうど目の前の空に花火が広がる。この位置なら外へ出た方が見やすそうで、わたしは「見に行こうよ」とダイゴの手を引いた。


 トクサネは四方を海に囲まれた小さな島であるけれど砂浜らしい砂浜はない。いわゆる岩石海岸と呼ばれる海岸はしかし場所によっては浅瀬もあった。今わたし達が向かっているのもいくつかある浅瀬の一つだった。
 花火の光に誘われて海へと出ると、そこには二つの世界が広がっていた。一つは空、もう一つは空の下に横たわる海。空へと花火が打ち上げられるとそれが海にも映る。わぁ、思わず感嘆の声が漏れた。
「月並みな言葉だけど、とても綺麗だね」
 隣のダイゴがその瞳に光の花を映して言った。綺麗なのはそっちじゃない、そんな言葉が喉まで上がってきたけれど飲み込んだ。こちらを向いてしまったらそれが消えてしまうから。
 けれどそんな願いもむなしくダイゴの瞳がわたしに向けられる。視線が絡み、その瞳の中に照れて顔が赤くなる自分が見えた気がした。それが恥ずかしくてふいと視線を外し、靴が濡れるのも構わず浅瀬に入る。足首辺りまで海水に浸かる。砂浜と違って海へと攫われる感覚はない。けれど黒に染まった海はまるで泥のように重く、足を上げるのも少し苦労した。
「危ないよ」
 後ろでぱしゃんと海水が跳ね、振り返るとダイゴも浅瀬へと足を踏み入れていた。わたしのと違ってダイゴの靴は高いのに、そんな的はずれなことを考えていたら手首を捕まれて。びっくりして反射的に腕を引くとずるりと足が滑る感覚を覚えた。
 まずい、そう思ったところで体が後ろへ倒れることは防げなくて。ぎゅっと目をつぶると同時に体が前へと引かれ、ばしゃんと派手な音を立ててわたし達は海へと倒れ込んでいた。
「予定ではもう少し格好よく助けるつもりだったんだけどね」
 尻もちをついたダイゴが照れくさそうに笑う。その胸の中でわたしの心臓は早鐘のように鳴っていて、触れ合った肌がひどく熱い。けれど離れたいとは思わない。
「ふふ、花火見なくていいのかい」
 その言葉に慌てて体を起こす。濡れた肌を夜風が撫で、足を攫うように波が押し寄せ足元には小さな白波が立っている。夢見心地だった心がすっと現実に戻ってくる。そうだ、今は触れた肌に思いを寄せる時間ではなく花火を見に来たの。起こしてほしいと伸ばされた手を取りながら意識を空へと向ける。
 夜空には月が輝き星が瞬いている。それらに負けじと花火が漆黒に光を散らす。きれい、そんな月並みな言葉しか出てこないのが惜しいほど素敵な光景だった。これで濡れてさえいなければ完璧だったけれど、火照る体の熱を冷ますにはちょうど良いのかもしれない。
「帰ったらまずはお風呂だね」
「ダイゴが先に入っていいよ」
 わたしの視界にダイゴが映る。空でどれほど星や花火が輝いていてもダイゴには勝てない。わたしの心を奪うのはいつだって彼なのだから。
「あれ、一緒に入ろうと思ってるんだけど」
 悪戯っぽく笑う恋人の瞳には一際輝く花火が輝いていた。