ダイゴとミクリと夢主で仲良く夏祭りに行く どちらとも友人関係
「ミクリも大変だね」 ダイゴが他人事のように言う。手に持つリンゴ飴はいつの間にか食べるのを放棄されていた。 *** 夏の終わりが見える今日、キンセツシティで夏祭りがあると知っていつもの二人に連絡を取るとすぐさま返事が返ってきた。ダイゴもミクリも何かと忙しい人だから連絡がつかない事も覚悟していたら、十分も待たずに返事があって驚いた。けれど同時にだったら普段もすぐに返事をしてよと少しだけムッとする。 待ち合わせの場所と時間を決めるとミクリから『どうせなら浴衣を着よう』と言われ、この夏最後の思い出になる夏祭りを華やかに彩るべくダイゴの意見は待たずに即座に浴衣着用案を採用した。浴衣の用意も着付けもミクリがしてくれると言ってくれたからそれに甘えて全部お任せして。後からダイゴに伝えるとそっけなく『了解』とだけ返ってきた。 約束の時間にミクリの自宅へと向かうとすでにダイゴは先に着いていて、しかもずいぶん早く来たらしい、着付けも終わっている。普段がきっちりしたスーツのせいか、浴衣姿の彼は何だか柔らかな印象だった。 「ミクリに用があったからね」 「私に用事、ね」 くつくつと笑い声を上げたミクリがわたしに意味ありげな視線を送ってくる。気になって訊ねても「何でもないよ」とはぐらかされ、おまけにダイゴにまで「気にしなくていいから」とまるでわたしが悪いと言わんばかりにつっけんどんな態度を取られた。今日に始まった事ではないとはいえ何度も繰り返されると少しつまらなくなる。 「ほら、{{kanaName}}も浴衣に着替えるよ」 君に似合う柄を用意したんだ。ミクリに背中を押されわたしも話題も流される。少し腹が立ったけれど、鏡に映る浴衣姿の前ではそんな些細な事はすっかり忘れていた。 *** 「なんでいつもミクリだけ囲まれちゃうんだろう」 ダイゴもチャンピオンでしょ。じっと頭から足の先まで眺めてみる。ミクリもダイゴもトレードマークのいつもの服装ではなく浴衣姿ではあるものの特別変装はしておらず、知る人が見れば一目で『夏祭りを楽しむコンテストマスターとチャンピオン』と気付かれる、はずだった。 ところが実際きゃあきゃあと黄色い声を上げられファンに囲まれるのはミクリだけ、ダイゴはそんなミクリをわたしと一緒に遠巻きになって面白そうに眺めている。 「認知度の違いかな。ボクはミクリと違って目立つ場所にはあまり出ないから、顔を覚えてる人が少ないんだよきっと」 ホウエンリーグのチャンピオンがダイゴであると知識で知っている人は多くてもその情報に容姿は紐付けられていない、ということなんだろうか。そう言われればミクリはコンテストマスターとして有名で顔も広く知られている。この前も雑誌で特集されていたのを見たばかりだった。 だとしても。ミクリばかりが大勢のファンに囲まれるのは少々納得がいかない。たまにはダイゴがもみくちゃにされればいいのに。 「あれはまだしばらく掛かりそうだね。待ってるだけなのも暇だから、何かしようか」 その瞳はいたずらっ子のようで、ぐいと手を掴んだダイゴはご機嫌な顔で笑っている。ミクリを待たなきゃと言っても足は止まらない。わたしは諦めて何をしたいのと訊ねる。少しの沈黙の後、 「射的なんてどうかな」 目的地の射的の屋台の前できらりと瞳を輝かせた。 *** 「ミクリにも見せたかったよ」 「だったら私を待ってくれたらよかったんじゃないかな」 ミクリの元へと帰ってくるとミクリはちょうどファンのおば様方から解放されたところで、少しくたびれた顔が恨めしそうにわたし達へ向けられた。 「そのチルット、ダイゴが?」 わたしが抱えている大きなチルットドールは景品の目玉だったようで棚のど真ん中に鎮座していた。絶対無理だと思いながらそれを取ってと言ってみると「任せてよ」と余裕の返事が返ってきて。こんな庶民的な遊びをダイゴが得意にしてるとは到底思えなかったけど返事はやけに自信に満ち溢れていて、まさかと半信半疑で見守っていたらチルットドールはいとも簡単に倒れて台から落ちていった。 うそだ、これには絶対何か裏がある、とダイゴの方を向けば声こそ出さないけれど初めてバトルに勝った少年のように満面の笑みを浮かべていて。こんなところで意外な特技を見せつけられてしまった。 「良かったね、{{kanaName}}」 口角は上がっているのに緑玉の瞳はちっとも笑っていない。わたしはこの目をしているミクリを何度も見ている。バトルで追い詰められた時、コンテストで他のポケモンがミロカロスよりもうんと輝いていた時、そんな時ミクリはうまく感情を隠せていない事がある。今回はダイゴの射的自慢で火がついてしまったんだろう。本当にこの二人はお互いの事となると途端に少年のようになるんだから。 「じゃあ私も{{kanaName}}に何か取ってあげようか」 抱きしめていたチルットドールは取り上げられダイゴへ押し付けられる。リンゴ飴がチルットの羽に引っ付いたように見えたのは気のせいということにしておこう。空いた手をミクリが掴む。気恥ずかしくて子どもじゃないから大丈夫だよと振り払おうとすると「ダイゴは良くて私は駄目というのは随分とつれないね」握る手に力を込められた。 *** 大きな青い水槽では小さな魚ポケモンたちが少々窮屈そうに泳いでいた。それは俗に観賞用ポケモンと呼ばれる平均よりもうんと個体の小さなポケモンたちで、ケイコウオやヨワシ、他にもタッツーやクズモーの姿も見える。屋台の看板には大きく『トサキントすくい』と書いてあるけれど肝心のトサキントの姿はほとんど見当たらない。その代わり、アズマオウが優雅にヒレを動かしているのがよく目に付いた。 「気になるポケモンがいれば取ってあげるよ」 ポケモンが下手なわたしでも飼えるポケモンはいないかとミクリに相談したのはつい先日のこと。その時はエネコやラルトスといった大人しいポケモンを挙げてもらって二人で色々と調べたけれど、どのポケモンもピンと来なくて悩んでいたところだった。この小さなポケモンならさほど場所も取らずお金も掛からずに飼えそうな気がする。それに水ポケモンなら何か困った時にミクリに相談だって出来る。 わたしはしゃがみ込むと水槽に顔を近づけ運命のポケモンを探す。やっぱりトサキントかな、それともホウエンでは見掛けないヨワシもいいかもしれない。 目の前を通り過ぎるポケモン達を目で追っていると、水中に一際強い光を見つけた。ケイコウオだ。ピンクの部分が鮮やかな光で輝いている。 「そのケイコウオ、とても美しいね」 いつの間にかわたしの隣にしゃがんでいたミクリが呟いた。そうだねと返すとエメラルドグリーンがわたしを真っ直ぐに見つめ返す。 「見たところ健康そうだし傷も見当たらない。君が望むならこの子を取ろうか」 自信に満ちた瞳がキラキラと輝いていた。 *** チルットドールはダイゴに、小さなケイコウオの入ったモンスターボールはミクリに預けてわたしは荷物の入った巾着を小さく揺らしながら屋台を見て回る。 「まさかボクまで人に囲まれるとは思ってもなかったよ」 ダイゴが脇に抱えたチルットドールが押しつぶされ、少し不細工な顔になっている。ダイゴもそんなチルットに負けず劣らず酷い顔だ。 「ボクもミクリの勇姿を見たかったのに」 トサキントすくいの屋台の前でいつまで経ってもやってこないダイゴに痺れを切らしたのはミクリよりもわたしが先で「ダイゴにも見せたかったんだけどね」と残念がるミクリに早く取ってとお願いをした。真剣な瞳がケイコウオを静かに見つめ、瞬きのうちにケイコウオがポイですくい上げられる。すごい、と感心していると自慢げな瞳が褒めてほしそうにわたしを映していて。ありがとうと礼を伝えれば「これくらいお易い御用だよ」ととびきりの笑顔が返ってきた。 取ったポケモンをモンスターボールへ入れ再びダイゴを待つ。けれどそれらしい人影は見当たらず、仕方なく二人で元来た道を戻ってみた。すると少し歩いたところにチルットドールを脇に抱えた姿があって、近寄るとダイゴが若いトレーナー数人に詰め寄られているのが見えた。 「あの子達もリーグが休みだから夏祭りに来たと言ってたよ」 明日にでも挑戦しに来るかもしれないな、ダイゴがやれやれと息を吐く。そうかもね、と相槌を打ちながらふと何かが引っかかった。ダイゴは今日リーグが休みと言ったけれどそんなはずはない。それなのにどうしてダイゴは夕方頃からミクリの家にいたんだろう。そんな疑問が思わず口から零れる。 「あぁ、それはね」 「ミクリ!」 くすくす笑うミクリと焦ったような怒ったようなダイゴ、こんなやり取りを確かミクリの家に着いた時にもやったような気がする。 「ダイゴったら私が{{kanaName}}の浴衣を勝手に選ぶのが気に食わなかったんだよ」 それでリーグを抜け出して私の元へと文字通り飛んで来たのさ。そこまで言い切るとついにミクリがふふっと笑い声を零した。 改めて浴衣に目を向ける。薄々気付いていたけれどこの浴衣やっぱり安物ではないらしい。ミクリのことだから拘った一品だとは思っていたけれどスポンサーに御曹司様がついていたなんて、この浴衣のお値段は下手に聞いたら大変なことになってしまう。 「あのトレーナー達も気分転換にお祭りに来たらダイゴがいたんだから、さぞ驚いただろうね」 「その通りに言われたよ。でもリーグは明日だってやってるんだから夏祭りくらい自由に行かせてほしいよね。それに他人事みたいに言うミクリだって午後からジムを閉めてるじゃないか」 「おや、そうだったかな」 もしかして、わたしが当日に二人を誘ってしまったから沢山のトレーナー達が困ったのかもしれない。今さら遅いけれどごめんねと謝るとダイゴもミクリもわたしは悪くないと声を揃えた。 「{{kanaName}}が誘わなくてもボクが誘ってたから」 「そうさ、私もちょうどこのお祭りの話をジムトレーナーから聞いて声を掛けようとしてたところだったからね」 二人が笑う。わたしはそんな二人に今日もまたべったりと甘えながら下駄を鳴らした。