壁の花になる夢主と自分だけの花にしたいダイゴ
カイナで一際目立つホテルで催されるパーティの広い会場は、大勢の人達で賑わっていた。そんな中、わたしは壁の花に徹している。 壁の花と言えば聞こえはいいけれど要は親しい人も声を掛けてくる誰かもおらず、ひとり寂しくこの無為な時間をやり過ごしているだけだ。父に半ば無理やり連れて来られ、いかにも地位の高そうな人達に挨拶をして、そして突然自由にしていいと放り出されたわたしは目の前を通ったウェイターから適当にグラスを受け取って華やかなパーティの輪から足を遠ざける。 帰ることも許されてはいたけれど父に見当違いな勘繰りをされても煩わしいからそれも出来ない。早く終わらないかな、グラスの中でパチパチとはじけるシャンパンの泡を数えながらパーティが終わるのを待つ。けれど時間は遅々として進まない。もう面倒な事になっていいから帰ってしまおうか、泡の落ち着いたシャンパンに口を付けたその時。 「やっぱりきみだ」 どこか聞き覚えのある声がして顔を上げれば、目の前に見覚えのある男性が立っていた。その人はツワブキダイゴ、以前どこかのパーティで今と同じように暇を持て余していたわたしに声を掛けてきた人。あの時ばかりはパーティに来て良かったと、わたしを引っ張ってきた父にこっそりと感謝してしまった。 かの大企業デボンコーポレーション社長の御曹司様はわたしと違ってとても〝人気者〟で、こんな所でわたしの相手をしている時間なんて持ち合わせてはいないはず。現に彼の後ろではどうにかして〝ツワブキダイゴ〟と言葉を交わそうとする人間たちがギラギラとした目を向けている。ひっそりと息を殺しているわたしなんかに構う前にそちらに応えてあげればいいのに、お久しぶりですと言葉を返しながらこの人の奇妙な行動に心の内で首をかしげる。 「今日はあまり楽しめていないようだね」 どんな縁があるか分からないから笑顔は絶やすなと父に言われていたことを思い出す。今さら取り繕ったところで、と思ったけれどデボンの御曹司様に悪い印象を持たれるのはきっと問題になってしまう。わたしは急いで笑顔を貼り付けた。 「ダイゴさんはお忙しそうですね」 「ボクなんかに挨拶したところでデボンには何の影響もないのにね」 やれやれとため息を吐く彼はちらりと後ろを振り返り、自分に向けられた熱い視線を確認すると「あの人達も大変だ」小さく笑った。 「そんな事よりきみだよ。誰か気になる人にでも声を掛けたりはしないのかい」 探るような目を向けられた、ような気がした。 父の会社がデボンに何かしら関係があるとは聞いていないけど、わたしには考えの及ばない思惑があって彼はその為にわたしを監視しているのかもしれない。そうでもなければツワブキダイゴという人間がわたしのような地味でぱっとしない女に二度も時間を取るなんて有り得ない。この場で純粋に出会いを求める人はほんの一握りで、彼もそんなもの求めていないだろうから。 「その言葉そのままそっくりダイゴさんに返します。素敵な女性が沢山いるのに、こんなところで油を売るのはもったいないです」 「うん、だから{{kanaName}}を探してたんだ」 ぶわりと顔が熱くなる。今、彼は何と言った。わたしを探していたと聞こえたけれど、そんな、まさか。 「ねぇ、きみはボクが一目惚れしていたって言ったら笑うかな」 この時ほど自分の耳を疑ったことはなかった。だって目の前にいるのはツワブキダイゴ、デボンコーポレーションの御曹司でホウエンリーグのチャンピオン。そんな人から一目惚れされるなんて、そんなの夢の中でだって起きるはずがない。わたしの見る夢はいつも彼の足音がだんだんと遠ざかるところで終わって、永遠に交わることはない、そのはずだった。 「そんなに不安そうな顔をしないで、耳心地の良い言葉で女性をたぶらかす趣味はないから、安心して」 ツワブキダイゴが笑う。それだけでわたしの視界は彼でいっぱいになる。彼の後ろから投げつけられる刺すような視線も、その他から向けられる好奇の目もまったく気にならなくなっていた。 「ボクにきみの手を取る許可をいただけるかな」 目の前に差し出された手。その手がわたしの躊躇う右手を優しく握った。