甘いブリオッシュに粉砂糖を振りかけて

初めてのお泊まりに緊張する夢主とダイゴ

 普段ならお風呂から出てしばらくすると眠たくなるのだけど、今日は今にも破裂しそうな心臓が睡魔をどこかへ追い払ってしまっていた。
 今日のために用意した下着はわたしを落ち着かせなくさせ、同じく買ったばかりのパジャマも妙に着心地が悪い。せっかく可愛いからと買ったのに、ボア生地の触り心地の良さよりも剥き出しになった足が気になって仕方がない。そのせいで無意識に太腿をさすっていたら「寒いのかい」と隣に座るダイゴさんに訊ねられて慌てて首を振った。
「なんだ、寒いならボクが暖めたのに」
 冗談とも本気とも分からない微笑みでダイゴさんが言う。見つめられ恥ずかしさに顔を伏せたらくすくすと笑い声が降ってきた。ダイゴさんはわたしと違い、お風呂上がりでも普段と何も変わらなかった。わたしばかりが鼓動を速め体を熱くしている。
 まだ寝るには早くて、けれど何をするでもない時間。いつものように二人並んでソファに座っているのにいつもとは違う空気に包まれている。
 本当ならもっとスマートに事が進行するはずだった。初めてのお泊まりだからと浮き立つ心を上手く制御出来ると思っていた。でも実際は心と体はちぐはぐで、一度たりとも思った通りに動かない。色の香りが顔を覗かせれば思春期の子供のように誤魔化して逃げの態度を取ってしまう。
 キスのひとつでも交わせればきっとダイゴさんの事だから何もかもうまく進めてくれるだろう。指輪を外した手がわたしをベッドへと誘って気持ちよくしてくれる。最初は余裕のある顔がじわりと色欲に塗れるのを感じながら、果てる時は一緒にと指を絡めればそれだけで達してしまいそうだ。
 けれどそれはすべて夢物語、隠している浅ましくも欲に忠実な妄想にしかすぎなくて。
「ねぇ{{kanaName}}、」
 耳元でダイゴさんの声がして甘い痺れに襲われる。口から零れた自分の声とは思えない声にますます顔を上げられなくなる。こんなはずじゃなかったのに、大人になれない心が嫌になる。
「ボクに任せてくれないかい」
 何を、なんて聞かなくても分かっている。鼓動がどんどん加速して痛みすら覚えてしまう。そして感じる視線に引き寄せられ顔を向けてしまうとわたしの好きな微笑みがあった。
 太腿の上でぎゅっと固く握った拳にダイゴさんの無骨な手が触れる。とたんに溶ける拳に指を絡められ、わたし達の間に僅かにあった隙間がゼロになる。
 いつの間に秘めた想いは知られていたのだろう。軽く触れ合うだけのキスをして再び目が合えば、ゆらり揺れる瞳が甘い笑みに包まれた。
「おいで」
 囁くような小さな声が空気に溶け、寝室へのドアが静かに開いた。