Make Me Eat ♡♡♡

ダイゴと彼のポケモンにバレンタインの贈り物をする夢主

「ハッピーバレンタイン」
 玄関の扉を開けたダイゴが何か言うより早く、わたしは出来るだけ笑顔を浮かべて一音ずつはっきりと発音した。こういうのは照れたり後回しにしてしまうと途端に難しくなってしまう。だからさっさと済ませてしまおうという魂胆だった。
 ダイゴは少々面食らった顔をしたものの、すぐさま唇に弧を描いて綺麗に微笑む。その顔で何人の女性を虜にしてきたのか、数えたら恐ろしいことになるに違いない。その中の一人であるわたしは、良い反応が返ってくることを願いながらこの日のために奮発したチョコをダイゴへ押し付けた。
「開けてもいいかい」
「どうぞ」
 緊張のせいで返事がそっけなくなる。ダイゴは気付いているのかいないのか、そこには触れずに「ありがとう」と楽しそうに笑う。
 部屋の中央にあるテーブルにチョコレートの箱を置く。艶のある黒の箱は質素なダイゴの家から少し浮いて見えた。もっとも、可愛らしい包装もこの家には似合わないのだけれど。
 わたしが小さな事で悩んでいる間に、隣のダイゴはテキパキと蓋を開けていた。そして、静かに息を飲む。ちら、と横顔を覗けば色素の薄い瞳が大きく開き、きらりと瞬き、相好が崩れた。
「すごいな……まるで本物みたいだ」
 ダイゴがチョコをひとつ取り出す。小指ほどの長さのそれは大きさこそ小さいけれど、どこからどう見てもほのおのいしだった。他にもかみなりのいしやみずのいし、めざめいしなどもある。
 チョコレートで出来た進化の石はダイゴにいたく好評で、いくつか手に取っては出来の良さにため息を零していた。
「食べるのが勿体ないよ」
「じゃあわたしが食べちゃおうかな」
 喜んでもらえてほっと安堵して、つい軽口が零れた。眉を顰めたダイゴが「これはボクのなんだけど」なんて随分可愛い言葉を返すから驚いて顔を向けると、自分の発言にうっすらと頬を赤く染めていて。
「きみでもダメ」
 すっと視線をチョコレートへ落とし、取り出していたのを仕舞うと丁寧な手つきで蓋を閉める。コレクションの鉱石をガラス棚へ戻す時だって今よりずっと肩の力を抜いているから、よほど大切に思ってくれているのがひしひしと伝わってくる。大事に扱っていることに嬉しくなり、けれど照れ臭さにむず痒さも覚える。だから、もう一つ持ってきた紙袋をテーブルへ置いて二つ目の用件に話を向ける。
「あとこれも」
 紙袋から取り出したのはチョコクッキーがぎっしりと詰まったシール容器だ。先程ダイゴに渡したチョコレートとは違ってお洒落とは程遠く、半透明の容器から透けて見える中のクッキーも手作り感満載で形もばらばらだった。ダイゴが眉を顰める。
「ポケモン用のバレンタインクッキーも作ってみたの」
 全員分買うには少し躊躇う金額だったから、と心の中で付け加える。調べてみれば案外簡単に作れそうで、味見したわたしのポケモン達はみな美味しそうに食べてくれたから、きっとダイゴのポケモン達も食べてくれるだろう。
 半透明のピンクの蓋を開けて一枚つまむ。そして先程からわたし達の傍に佇んでいたダンバルへ差し出してみた。突然のクッキーにダンバルは恐る恐る匂いを嗅いで、それから主人のダイゴへお伺いを立てるように視線を向ける。ダイゴは一寸考えてから「いいよ」と頷き、許可を得たダンバルはぱくりとクッキーに齧り付いた。硬めのクッキーは意外にも軽やかな音を立ててダンバルの胃の中へ収まってゆく。そしてあっという間に目の前から消えてしまった。ダンバルがもう一枚、とクッキーがなくなった手のひらへゴツゴツした体を押し付けてくる。ほっと胸をなでおろした。
「もう一枚あげてもいいよね」
 軽くなった心は返事は待たず、うきうきと容器へ手を伸ばす。一枚目は様子見も兼ねて小さいのを選んだから今度は少し大きめのをあげよう。
 そうして選んだ、少し大きくていびつなクッキーをダンバルへ差し出したその時、ぐっと強い力で肩を掴まれた。急なそれにわたしの体はぐらつき、背中からダイゴへともたれかかってしまう。ごめん、と足に力を入れ離れようとすると、
「ボクにはないの?」
 腕を回して逃げられないようにしたダイゴの、少し不機嫌そうな声が耳元で鳴った。
「何の」
 こと、と尋ねるよりも先に、クッキーを持った手がダイゴによって自由を奪われる。目の前のダンバルが驚いた顔でわたしを、否、わたしを捕まえる主人とクッキーを見つめている。その視線をなぞるように首を動かすと、ゆっくりと口を開いたダイゴが、躊躇うことなくクッキーを齧った。
 硬いクッキーをゆっくりと咀嚼する音が部屋に響く。普段鉱石などの硬めのものを食べているダンバル達に合わせたそれは、人が食べるには少し厄介だった。それでも黙々と口を動かして細かく砕き、口の端に付いたクッキーのくずをぺろりと舐め取る。
「これ、硬いし味が薄いよ」
 だってそれはポケモン用だから、言い返そうとして、しかし声が止まる。残ったクッキーをダイゴが食べてしまったから。それも、クッキーを摘むわたしの指ごと。歯が当たり、舌が触れ、慌てて手を引いた。指先が、熱い。
「ボクも{{kanaName}}の手作りチョコが欲しいな」
 およそクッキーを食べているとは思えない咀嚼音の後、いつもより甘い声でダイゴが呟く。
「作ってよ」
 耳に息が掛かって擽ったい。どくどくと心臓が波打つから、触れた背中からダイゴに伝わっていないか心配になる。逃げたくともダイゴの両の手が離してくれず、視線を逸らしてもわたしへ向けられる眼差しの気配は消えてくれない。
「こ、今度作るから」
 しばらくクッキーはお預けだと悟ったダンバルがしずしずと離れていく。ダイゴだって気づいているだろうに、何も言わず、それどころか無視をして「だめ」と話を続けて。
「今日がいい」
「でも材料が……、道具だってないから、」
 必要最低限の家具しかないこの家にはボウルも計量器もない。だから今日がいいと言われても作れるわけがない。そうしたら不服そうに眉間にしわを寄せた顔がわたしの顔を覗き込んで、じろりと睨め付けられて。
「{{kanaName}}の家で作ればいいじゃないか」  せっかくダイゴの気に入りそうなチョコを探したのに、とか、突然言われても作れるものじゃないんだから、とか、言いたい事は山ほどあった。けれど強い眼差しの奥に照れた瞳を見つけてしまったなら、もう何も言えない。可愛らしい焼きもちが愛おしい。
「もう、仕方ないなぁ」
 なんて軽口を叩いて笑ってみれば、ダイゴが一際明るい笑顔になって瞳がきらりと瞬く。わたしを抱く腕に一層力がこめられ、わたしのとは違う鼓動が背中を撫でた。