付き合ってる夢主とダイゴ
「モデル、ですか」 仕事の依頼だと言って連絡を取ってきた男はぽかんとする私を置いてけぼりにしてどんどん話を進めていく。撮影時期、撮影場所、私の他にオファーを出している女優やモデル、その他諸々。まだ受けるとも何とも言っていないのに彼の認識では私は快く仕事を受けると思っているようで、この仕事が好評ならその後にはこんな仕事も依頼したい等とペラペラ言葉を吐き出し続けている。 「あ、あの」 何とか言葉を滑り込ませて彼の演説を止める。男は私の声に気が付き「はい、なんでしょう!」にっこにこの笑顔を向ける。 「良いお話ですけど私には」 「いやいやとんでもない! 普段のトップトレーナーとは違う一面を見せる絶好のチャンスです! きっとみんなそのギャップに驚きますよ!」 参考資料として配られた“それ”の写真に目を落とす。写真には女の子が一度は夢見る純白のドレスが写っていた。これのモデルとして私を起用したい、らしい。 普段の私は彼が言ったようにトレーナーをしていてそれなりに名前が通っている。イベントでバトルをしたりバトル指南講義をしたり、どちらかと言えばオシャレとは縁遠い存在として認識をされている。だから、と言い訳をするつもりはないけれど今まであまり身だしなみに注力することはなかった。 そんな私にウエディングドレスのモデルとは。 「この前の口紅のポスターだって好評だったじゃないですか! これだっていけますよ!」 彼の言う通り、私は少し前にコスメのCMに出演していた。でもあれはほんのワンカットであるし、ポスターだってメインの女優さんの影に隠れるようにひっそりと載っているだけ。それにあのCM、恋人のダイゴは感想のひとつもくれなかった。きっと馬子にも衣装くらいの感想しかなかったからあえて触れなかったんだと思う。だからこの仕事を受けてしまったら今度こそ勘違い女と笑われてしまうかもしれない。 「{{kanaName}}さんは女性人気が高いですし是非とも受けていただきたいんです!」 熱弁する彼には申し訳ないけれど、私の心は断る方へ傾いている。けれどここで断ってしまうのは申し訳なくて、保留という形で一度持ち帰ることとなった。 *** その日の夜、いつものようにダイゴに電話を掛ける。都合が付かなくて声を聞く程度になることも度々あるけれど今日はどうだろう。 「今大丈夫?」 『ちょうどボクから掛けようと思ってたんだ』 たったそれだけの言葉でも私の心をぽかぽかさせてしまうのだからダイゴはずるい。私は貴方の何気ない一言で喜んだり悲しんだりいつだって忙しい。 「あのねダイゴ、今日――」 私は笑い話としてウエディングドレスのモデルの件を話した。私なんて笑われちゃうよね、と。 『その話、断ったの?』 「その場で断るのは申し訳ないかと思って一応保留にしてて、来週に返事をすることになっているの」 『そう、なんだ』 私の話を聞いていたダイゴはいつになく口数が少なくて、やっぱり断ることは間違っていないと確信する。フォローの言葉も出ないんだもの、舞い上がってその場で引き受けなくて正解だった。でもせめて何か一言くらいフォローしてくれてもいいのに。 『そういう仕事はその場で決めたらダメだからね』 「引き受ける時はちゃんと隅から隅まで契約書読むから大丈夫よ」 『そういう話じゃないんだけど……、まあそれも大切ではあるね』 その後はポケモンの話をしたり次のイベントで行うバトルのポケモンの相談をしたりした。けれどダイゴは疲れているのかいつもより口数が少なくて。本当はもっと話がしたかったけれど無理させるのは良くない。私は少し眠たくなってきたと小さな嘘をついて今日の電話を終了した。 *** 翌日、お昼を過ぎた頃、昨日のモデル依頼の件で電話が掛かってきた。ちょうど良かった、少し早いけれどこの電話で断ってしまおう。来週までモヤモヤするのはしんどかったからラッキーだ。 ところが私はその依頼を断ることが出来なかった。なぜなら、 『昨日依頼したモデルの件ですが一旦白紙にしてもいいでしょうか』 昨日はあんなに元気が良かった男は一変して萎びた野菜のようだった。その変わりようにびっくりしたけれど、この一日で一体何があったのだろう。 『もしまた何かお願いすることがあれば連絡をしますので』 「はぁ」 断るつもりだったから何の問題もないはずだけど、向こうから断られると少し不満を覚える。それなら自分から連絡すればよかったな。 電話を切ると収まらないモヤモヤを何とかするためにダイゴにメッセージを送った。断る前に断られちゃった、何だか悔しい、と。 《それは申し訳なかったね。気まずいと思って代わりに断っておいたんだ》 ところが返ってきたメッセージは慰めるものではなくて。予想外な内容に返信の言葉が出てこない。 《もし{{kanaName}}がウエディングドレスを着たいなら一緒に週末にでも見に行こうか》 メッセージの意味に気づいた私の体はまるでオクタンのように真っ赤になって、追い討ちのように掛かってきたダイゴの電話を光の速さで拒否していた。