恋人ダイゴとかき氷を食べる夢主
近くの駄菓子屋がかき氷を始めていた。わたしは足を止めて2つ注文する。笑顔の優しいおばあさんが豪快に氷を削って、あっという間に氷の山が2つ出来上がる。 シロップは自由に好きなだけ掛けていいと言われて、ひとつは青いシロップ、もうひとつは赤いシロップを、氷がすっかり染まるくらいしっかりと掛けた。それからストローで作ったスプーンを氷の山へ挿して溶けちゃう前に急いでダイゴさんの家へと向かった。 ダイゴさんは御曹司だからかき氷なんて殆ど食べたことがないに違いない。かき氷は家で自分で作るのも美味しいけれど、夏祭りなんかで買うかき氷は特別美味しい。でも御曹司のダイゴさんはきっとあの美味しさも知るまい。 そう考えたら案外御曹司もかわいそうで、今年の夏はホウエン中のお祭りに行ってたくさん思い出を作るのも良いかもしれない、と頭の中でスケジュールを立ててゆく。可愛い浴衣も用意しなくちゃ、わたしの足は軽やかに地面を踏んで歩き慣れたトクサネの道をどんどん進んでいった。 家へ着くとかき氷で塞がってしまった両手でどうにかチャイムを鳴らして、ドアが開くなり青い方のかき氷をダイゴさんへ押し付けた。 「あそこの駄菓子屋、今年もかき氷売り始めたんだね?」 安い発泡スチロールの容器を受け取って、ダイゴさんがキラリと目を輝かせて笑った。その目と口振りから、この御曹司サマは御曹司のくせにかき氷を食べたことはあるらしいと気づいてしまった。せっかく青いシロップを選んだのに、この様子だと舌がシロップ色に染まっちゃうことも知ってるに違いない。驚いた顔が見れるかと思ったのに、ちょっとつまらない。 テーブルに向かい合って座って、少し溶け始めたかき氷を小さなスプーンで掬う。いかにも合成着色料の色に染まった氷は舌の上であっという間に溶けてなくなる。その冷たさは火照った体に心地良くて、ついパクパクと食べる手が止まらなくなる。 そんなわたしをダイゴさんはにこにこと楽しそうに眺めて、「そんなに急いで食べたら頭が痛くなるよ」なんて笑っている。ちょっと恥ずかしくなって、そんなに見つめないで溶けちゃう前に食べてよ、とダイゴさんのかき氷を見ると驚いた事にわたしと同じくらい、いや、わたしよりも低くなった氷の山がそこにあった。真っ青に染まっていた氷の山の頂上はもうとっくに見当たらない。 「ほら、早く食べないと溶けてしまうよ」 そう言ってペラペラのストロースプーンを氷の山――といってももうそれは平で雪原だ――に突き刺し、小さなスプーンに少し青く染まった氷の塊が切り出される。普段笑う時には控えめに開けられるその口が大きく開いて、青の氷塊がぱくりと口の中へ消えてゆく。何度か咀嚼してもう一度、同じようにかき氷がダイゴさんの腹の中へと収められていった。 「あっ、」 まじまじと見つめていたら、青く染まった舌が口の中からちろりと覗いた。あの御曹司サマの舌が青く色付いている。思わず声を上げたら何だか可笑しくなってきて「ふふっ」と堪えきれずに笑い声が漏れてしまった。 ざくざくとスプーンで固まった氷を砕いていたダイゴさんが少し眉をひそめてこちらを向く。何でもない、と首を振ってどうにか誤魔化す。 けれど一度気づいてしまったら視線はどうしても青を深めてゆく舌に釘付けになって。それに、本人はきっと承知の上で食べてるから驚いてはくれないだろうけど、それはそうとして当分は色落ちしない舌に悩む姿を思うと笑いを堪えるのも大変で、とうとう大きな声で笑ってしまった。 「何を……。あぁ、そういうことか。{{kanaName}}だって赤くなってるよ」 かき氷に目を落とすと、わたしのも最初の半分ほどの量になっていて、あの赤色の氷の大半を食べしまっている。あまり目立たない色のシロップを選んだつもりだけど、今のわたしの舌はダイゴさんの言う通りいつもの何倍も赤くなってるんだろう。 「ふふ、唇より赤くなってる。何だか美味しそうに見えるね」 ねっとりとした声と言葉に視線をダイゴさんへ戻したら、アイスブルーの瞳がじっとわたしを見つめていた。青いシロップを透明な真水に数滴垂らしたようなその瞳は、今日のようにかき氷を食べたくなるほど暑い日には涼しげに映る。けれど今はしずかに煮えたぎるお湯のように奥底に熱が見える。触ったら火傷してしまいそう。 「ねぇ{{kanaName}}、ちょっと食べさせて」 えっ、と思った時にはダイゴさんがテーブルに両手をついてこちらへ身を乗り出していた。さほど広くないテーブルはちょっと体を起こせば向かいに座るわたしに簡単に手が届く。 今のわたしはゆっくり楽しくお喋りしながらかき氷を食べたいだけなのに! 慌てて両手で顔を守る。そんなのダイゴさんが本気を出せば何の意味もないけれど、だからって無抵抗なんて無理な話で。ぐっと腕に力を込めて今にも掴んでくるダイゴさんに備えた。 「あ、れ……?」 けれど、いつまで経ってもわたしの体にダイゴさんが触れる気配はない。ぎゅっと固く閉じていた目を開け、両手の隙間から前を覗いた。ダイゴさんはきちんと椅子に座ってにこにこと笑っている。 「香料と色が違うだけで味には殆ど差がないなんて、実際に食べ比べてもなかなか信じられないね」 もう一口いいかな。そう言ってダイゴさんが腕を伸ばし、わたしの赤いかき氷を器用に掬う。視線をかき氷の容器へ落とすと、均しながら食べていたはずのそれに大きな穴が掘られていた。 「ん、どうしたんだい?」 うっすらと赤く染まった氷を口に含んでダイゴさんが笑う。にこにこと害のなさそうな笑顔はしかし、口角が上がってゆくのを隠せなくて意地悪な笑みへと変わってゆく。わざと勘違いするような言い方をして、わたしの反応を楽しんだ悪い男にぴったりの笑顔だった。 「{{kanaName}}は本当に素直なんだから」 笑った口から覗くダイゴさんの舌は青く染まっていて、あんな冷たそうな舌とはしばらくキスなんてしてやらないんだからと心に誓って頬を膨らませた。