ダイゴ→→(←)夢主 リーグスタッフ夢主と実は以前から夢主が気になっていたダイゴ バレンタイン数日前の話
今年もこの季節がやって来てしまった。連日届く大量のチョコレートに、何度目か分からないため息が吐き出される。 わたしはこんな事をする為に必死に勉強をして此処に就職した訳じゃないのに。漏れ出そうになる愚痴をぐっと堪えて無心でチョコレートの山に立ち向かう。聞くところによると、惨状はここホウエンだけでなく、カントーもシンオウも同様らしい。また一つ、ため息が零れる。 「今年も大変だね」 こんな馬鹿げた作業に人は割けない、とこの仕分け作業は毎朝ジャンケンをして担当を決めるのがサイユウの謎の慣例で、昨日に引き続きジャンケンに負けたわたしが一人寂しく倉庫に篭って罰ゲームを受けていた。そんなわたしに声を掛けたのは、チョコレートの山を築く原因の一人、チャンピオン様だ。 ダイゴさんは自分宛のチョコを一つ取り上げると、わたしの制止も聞かずに包装紙を開いた。中には危険な物が仕込まれている事もゼロではないから無闇に開けるのは固く禁じられている。だから本当に心底肝が冷えた。 「そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ。これは安全な気がしたんだ。はい、疲れた体には糖分が必要だよね」 差し出された小箱の中には、いかにも高級そうなチョコレートが収まっている。最初の一つをわたしなんかが食べていいんだろうか。全てのチョコを本人が食べる訳がないとは言え、幸運にも手に取って貰えたのだ、せめて一粒目くらいは本人に食べて貰いたいのが乙女心というものだろう。わたしは甘い誘惑を仕事中だからと首を振る。 「じゃあ今から休憩時間にしよう。チャンピオンのボクが言うんだ、誰にも文句は言わせないよ」 そう言って、ダイゴさんはわたしの隣のパイプ椅子に腰を下ろした。何が起こったか分からずダイゴさんの一挙一動を目で追う事しか出来ない。 「どれがいいかな……これなんかどうだい?」 すらりと長い指が小箱からチョコレートを一粒摘む。可愛らしい花のデザインプリントが素敵で食べてしまうのが勿体ないと思った。ダイゴさんは一口で食べてしまうんだろうか。チョコレートを行く末を見守る。そうしたら、 「ふふ、どうしたら口を開けてくれるのかな?」 つん、と唇にチョコレートが当たった。あっ、と驚きと恥ずかしさで声が零れた瞬間、舌の上にとろりとした甘みが広がっていく。 吐き出す訳にもいかないし、かと言ってこのまま食べていいのかも分からない。困っていたら「どう? 美味しい?」ダイゴさんが小首を傾げて感想を求めてきて。舌の上で四角いチョコを転がし味を確かめ、こくこくと頷いた。チョコレートの甘さと、何か他の味もしたけれど今の私にはただ甘いとしか分からなかった。 「本当だ、美味しい」 星の描かれたチョコレートがダイゴさんの指に捕まって口の中へと消えていく。少しの沈黙の後、ダイゴさんは満足そうに笑った。 「ああでも、ここにある全ては食べられないな。ねぇ{{kanaName}}、」 首から提げた名札には一度も目を向けずに、ダイゴさんがわたしの名前を口にする。わたしがこの人に自己紹介する機会があったのは季節が二つほど前に一度あったきり、それから今日まで軽く会釈して挨拶を交わすことはあっても、それだけしかなかった。 「間違えないように直接貰いに行くから、これより甘いチョコレートを用意してくれるかい?」 何を言われているか理解が出来なくて、見つめてくる宝石のような瞳が恥ずかしくて、逃げるように視線を切った。体が熱い。鼓動が速くなる。 「休憩、終わりかな。ボクもそろそろ戻らなきゃ。じゃあまた、楽しみにしてるよ」 パイプ椅子の軋む音がして、小気味よい靴音が響く。ドアの開閉音を確認して、それから呼吸をひとつして顔を上げた。ダイゴさんはもういない。 けれどテーブルにはチョコレートが残っている。口の中にも酔ってしまいそうな程甘くて甘いチョコレートがかすかに残っていた。