蛇行するラブ

何かと口実を作ってダイゴの家へ押しかける夢主と悶々とするダイゴ

「きみは少し常識を知った方がいい。いくら知り合いだからって、一人暮らしの男の家に何度もやって来るのは危ないよ」
 突然だった。いつもの様にダイゴさんの家を訪ね、お邪魔させてもらうお礼に料理を作ろうとキッチンへ向かったら背後から乱暴に捕まえられた。
 背中から回された腕は故意なのか偶然なのか片方は胸の辺りに伸び、もう片方は腰を掴んでいる。その両の手が静かに動く。偶々じゃない。わざと胸と腰へと回された両手が、何かを求めて服の上を這う。
「来ても良いと言ったのはボクだよ。でもそれは、{{kanaName}}が此処だとエリートトレーナー認定試験の勉強が捗ると言うから断りにくくてね。そうしたらきみ、随分寛ぐようになっただろう? ボクの家なのに、無防備に肌を晒しちゃってさ」
 いやらしく動く手がわたしの体を熱くする。けれど同時に冷たさを感じる声に心の芯が冷えていく。
「ねぇ{{kanaName}}、ボクときみは男と女なんだよ?」
 熱くなった息が耳朶に掛かる。自然と強ばる体がぞくりと震えた。ぎゅっと噤んだ口から息が漏れる。
「まさか『チャンピオンなら何もしない』って思ってたのかい?
 意地悪するように体を撫で回していた手が止まる。けれど次の瞬間、わたしの肩をぐいと掴んで無理やり体を反転させた。真剣な表情をしたダイゴさんがアイスブルーの瞳でわたしを見つめている。甘い雰囲気はない。背中から伝わった燃えるような熱もどこに隠したんだろう。頬は雪のように白く、唇も普段と変わらず桜色を乗せるばかりだ。
 ダイゴさんはしばらく黙っていたけれど、不意に一歩、足を前へと踏み出した。反射的にわたしの体が後ろへ下がる。
 嫌いだからじゃない。むしろわたしはダイゴさんに好意を寄せている。勉強は此処へ来る口実だった。
 もちろん一足飛びで恋人になれるとは思っていない。ただ少し、ほんの少しでいいから意識されたいとは思っていた。だから時々胸元が開いた服を着たり、丈の短いスカートを履くこともあった。
 でもそれは気分転換やお洒落の言葉で納得出来る程度のもの、ポケモンや石が大好きでトレーナーの性別なんて気にもしてないようなダイゴさんの気を引けるだなんて、実際は露ほども期待していなかった。だからこそ、困惑がダイゴさんから距離を取ろうとする。
「チャンピオンだからって聖人ではないんだよ。ボクは人より少し強いトレーナーなだけで、人並みに性欲もあれば誰かを自分のモノにしたくもなる」
 もう一歩ダイゴさんがわたしへ近付いて、もう一歩わたしは下がる。
 ダイゴさんが瞳を伏せ、そして再びわたしを見つめた。
「ごめん、今日は帰ってくれるかな」
 いつだって前を向く瞳が、世界を照らす太陽のような輝きを湛えた瞳が、霧を閉じ込め先を見失っている。眉は下がり、それでも笑顔だけは浮かべて無理やり明るい顔を作っている。
「きみの前ではもう少しだけ、チャンピオンで聖人で信頼出来る人間でありたいんだ」
 帰らなかったら、どうなるんだろう。問うようにダイゴさんを見つめる。ダイゴさんは困った顔で首を傾げ「参ったな」息を吐いた。
「忠告を聞かなかったのは{{kanaName}}、きみだからね」
 ダイゴさんの瞳に光が戻る。夜空に輝く一等星よりも眩しく煌めくアイスブルーがわたしに微笑みかける。勝気な視線がわたしを捉え伸ばした手がわたしを掴む。そうして今度は力強く、けれど優しさも込めてわたしを腕の中へ収めた。