博物館デートの途中、小さな不満に気付いてくれないダイゴに胸が痛む夢主
春が近い。 つい数週間前までしっかり着込んで防寒に力を入れていた筈なのに、今日は春の陽気で染めたようなパステルカラーを纏っている。 隣を歩くダイゴさんをちらりと覗く。今から向かうのはミナモにある博物館。目当てはそこの特別展示で、何でも世界各地で見つかった隕石の展示が先週から始まったのだとか。 わたしはダイゴさんほど鉱石に興味を持てなかったけれど、ダイゴさんが少年のようにキラキラと瞳を輝かせて石を眺める姿は大好きだった。 どこまでも広がる青空のように澄んだ瞳は、隣に恋人のわたしが居ることも忘れて大好きな石を一心に見つめる。普段はよく気の回る好青年のくせに、石を前にすると幼少期から身に付けた筈のそれらを脱ぎ捨て何者でもない、ただのツワブキダイゴへ戻ってしまう。そんな所が嫌だと別れた女性もいたらしいけれど、わたしはそんなダイゴさんが大好きだった。 だから、まだ博物館に着いていないのにすっかり石に夢中で、これから見れるであろう隕石について詳しく教えてくれるダイゴさんに、わたしも頬を緩ませて相槌を打っている。 ダイゴさんは素人のわたしにも分かるように平易な表現を使って、けれど時々マニアックな説明も織り交ぜ終始笑顔で石を語る。きらりと輝く瞳はダイヤモンドよりも煌めいて、浮かべた笑顔はバトルの時より柔らかくて優しい。心地良い時間だった。 でも、わたしの口から溜め息が零れる。 手持ち無沙汰の手が春の香る風を掴んではその虚しさに手を開く。ほんの数週間前ならこの手はダイゴさんと熱を分け合っていた。でも春が近付くにつれ、わたしの手は一人きりになっていった。 「ごめん、ボクの都合を押し付けてしまったね。博物館はよそうか。{{kanaName}}はどこか行きたい場所があるのかい?」 こっそりと吐いた筈の溜め息は聞かれてしまっていたのだろうか、ダイゴさんが少し眉を下げた笑顔でわたしの顔を覗き込む。慌てて笑って隕石を楽しみにしていると伝えるけれど、当然そんな急ごしらえの笑顔じゃ納得してくれない。笑顔が険しい顔つきに変わる。 「遠慮しなくていいよ」 遠慮はしていない。隕石自体も楽しみなのは本当であったし、何よりダイゴさんと二人の時間を過ごせるだけで満足だった。 ただ、手が寂しいだけ。 「折角のデートなんだ、ボクは{{kanaName}}に笑っていてほしいんだ。だから、」 ダイゴさんが言葉を切る。シュワシュワと泡の弾けるサイコソーダを閉じ込めたような瞳が、わたしの瞳から離れ下を向く。ダイゴさんの見つめる先にあるのは彼の大きくてゴツゴツした彼自身の手だ。ただし、わたしの手の甲とダイゴさんの手の甲がほんの僅かに触れ合っている。直接言うのが恥ずかしくて照れ臭くて、気付いてほしいと手を近付けたわたしの手がダイゴさんの瞳に捉えられる。 「そんな事でいいのかい?」 呆れたように言うけれど、ダイゴさんの頬はうっすらと赤みを帯びている。こちらを向いた瞳も普段の落ち着いた雰囲気を上手に纏えず感情が剥き出しだ。尤も、わたしだって似たようなもので、見つめる瞳が眩しすぎて視線を逸らしてしまう。 〝そんな事〟よりもっと先の行為をしていても、幼い子供じゃないからこそ〝そんな事〟が案外難しい。冬が終わりに近づき寒いという口実がなくなると、一層困難になっていく。だから溜め息も出るし顔も熱くなる。 「博物館が嫌じゃないんだね?」 ダイゴさんがわたしの手を取る。わたしよりしっかりとした指が手の甲を撫で、そして指が絡み合う。そして簡単には離してやるものかと、ぎゅっと力が込められる。ばくばくと煩い心臓が口から飛び出ないよう、きゅっと唇を結んで数度頷く。 「じゃあ行こうか」 繋いだ手を引っ張られ、わたしの体が動き出す。隣のダイゴさんは相変わらず瞳をキラキラさせてまた石の話を始めたけれど、その瞳の中心にはわたしの姿がくっきりと映っていた。