迷惑かけたら悪いと会うのを控える夢主と、そんな事全く気にしていないダイゴ ※【こちら】の動画の3次創作(動画を文章に書き起こしたもの)です。元の動画のダイゴさんがとても格好良いので是非ご覧ください!
今日は休日でせっかく良い天気だというのに、持ち帰った仕事を仕上げなくちゃならない。唯一の救いは半日もあれば終わる量ということだけど、面倒なことには変わりない。全然やる気が出ないから気分転換もかねて外へと出た。 やって来たのはショッピングモールの屋上庭園の一角、大きなパラソルのついたテーブルだ。楽しげに笑う家族連れや友達グループにまじってその一つを陣取ると、大きいため息を吐きながらノートパソコンを開いた。 気分転換にちょうど良いと思ってやって来たけれど、周りは休日を楽しむ人々で溢れてやる気なんて出るはずもなかった。手は動かしているから一応作業は進んでいるものの、ほとんど進んでいないと言う方が正しくて。下の階で買った新作ラテを啜ってみても、ちっともやる気には繋がらない。むしろ虚しさが心に滲んでゆく。 ――あぁ、もう。 ストローから口を離してため息をついた。半日とはいえ仕事で休日が潰れたショックと、これがなくても今日は何の予定もなく暇をしていた事実がわたしの気分をうんざりさせる。 会いたい人がいない訳じゃない。むしろ会いたくてたまらない人がいる。 でもその人は今、少し世間に注目されていて、「しばらく会わない方がいいよね」と物分りのいい大人な態度を取ってしまった。当の本人、ダイゴは眉を八の字にして肩を竦めていたけれど。 普段はダイゴ自身が嫌がる事もあって滅多にメディアで扱わないのに、とある地方で開かれる大きな大会にホウエン代表として出場すると決まった途端に周囲は騒ぎ始めた。 ダイゴがポケモン勝負の大会に出場することは今までにも何度かあった。けれど今まではメディアの取材には消極的でそのほとんどを断っていた。 それが今回はどうだろう。大人の都合か何なのか、大会を盛り上げる一助になるならと快く引き受けるから、あっという間にホウエンを賑わす有名人になってしまった。まだ大会は始まってもいないのにこれだから、この騒ぎはしばらく終わりそうもない。そういう訳で意地を張って彼氏に理解ある彼女を演じたわたしは、当面の間甘い予定がなくなってしまったのだ。 ――やだなぁ。 またひとつ、ため息が零れる。いやに晴れた空と、周囲の楽しげな声がわたしをどんどん不機嫌にさせる。こんな事なら家に篭っていた方が良かったかもしれない。 あの時格好なんて付けなかったら今ごろわたしだって。八つ当たりと分かっていたけど周りをじろりと睨みつける。こんな休日日和にも仕事してるわたしに少しは周りも遠慮し―― 「えっ?」 左へ向けた視線が信じられない姿を見つける。見間違い、他人の空似かもしれない。でもわたしが間違えるはずがない。それはどこからどう見てもダイゴだった。 突然のことにあんぐり口を開け、間抜けな顔で呆然とその姿を見つめていると、銀の髪が揺れて彼がこちらを向いた。 ダイゴはなぜか驚いた様子もなく、薄く笑みを浮かべて長い指を唇に当て何かを囁いた。少し離れたテーブルに座っているから声は聞こえない。でもダイゴは確かに「静かに」と言った。 わたしは驚きのあまり飛び出しそうになった大声をぐっと堪えて前へ向き直る。ちょっと待って、何これ、何でこんな所に、わたしは何も言ってないし、それに今日はダイゴも取材が、って。あぁもう、どうしよう、こんなことならもっとオシャレして―― 「やあ{{kanaName}}、奇遇だね」 不意に、視界の中に青みがかった銀色が割り込んだ。いつの間にかダイゴがこちらに来てテーブルに手をついて、ぐいっとわたしの顔を覗き込む。 目が合って、ダイゴがゆるく口角を上げた。上機嫌の時はいつもそうで、つまり驚いて必死に平静を保とうとしているわたしとは違って、ダイゴは今とてもご機嫌のようだ。 ダイゴは、それがさも当然というように向かいの席へと腰掛けた。こんな安物の椅子に座る時でも彼の背筋はピンとして、たったそれだけの事なのにわたしはドキリとしてしまう。それから両手を組むと、わたしを虜にする笑顔でにっこりと笑った。それはサプライズが上手くいったと言わんばかりの、とても満足げな笑顔。困惑と時めきで鼓動がどんどん加速していく。 ――一体、何がどうなってるの。 混乱するわたしは状況が理解出来ず、どうにか声に出したものの「な、んで」とあまり意味のない一言だけ。わたしの反応を楽しむ余裕すらあるダイゴと比べたらひどい有様だ。 「やっぱり気付いていなかったんだ」 ダイゴだけが全てを分かっていて、くすくすと楽しそうに笑う。ここ最近は画面越しにしか見れなかったダイゴが、わたしを見て楽しそうに笑った。そうしてひとしきり笑ったら、アイスブルーの瞳を細めて柔らかに微笑んだ。 「何となく、ここに来たら{{kanaName}}に会える気がしてね」 何なの、それ。ダイゴは勘は良い方だと自分でも言っているけれど、それにしたって鋭すぎる。これじゃあまるでわたしの全部を見透かされているみたいだ。意地を張ったくせに寂しがっていることも、こうやってダイゴに会えて嬉しいことも、全部ぜんぶダイゴにはお見通しなのかもしれない。大きなパラソルがテーブルに日陰を作ってくれているのに、真夏の太陽を全身に浴びたように全身が熱くなっていく。 「わたし、仕事があるんで……って、な、何……」 わたしの言葉を聞いているのかいないのか、ダイゴが立ち上がった。視線をずっとわたしに合わせたまま、ドキドキするような薄ら笑みを浮かべて、わたしの目の前にやって来る。 「あ、あの……」 戸惑うわたしに、ダイゴは瞳を細めると恭しく頭を下げた。まるでパーティで女性をダンスに誘うような、紳士が相手をエスコートするような、ちょっぴり芝居がかった仕草は、けれどダイゴだと様になっていてますますドキドキが止まらない。 「ボクの愛しいお姫さま、この手を取っていただけますか」 仕事はまだ終わっていない。まだ、新作ラテを飲んだだけ。 でも休みは明日もある。何の予定もない休みは明日も続く。それに、きっと明日はダイゴには会わない。 目の前に差し出されたダイゴの手に自分の手を重ねる。さっきまで煩わしかった休日の音が、一瞬にして心地良い音色へと変わった。