要するに見せつけたい

デートは何の為にするのか考えを改めたダイゴとそれに振り回される夢主

 最近ダイゴくんがおかしい。絶対におかしい。でも当の本人は何も変わらないって顔でにこにこ笑っている。明らかにおかしいのに。
「たまにはこういうのも良いね」
 いたくご機嫌な様子でダイゴくんがストローを咥える。喜んでいるのは何よりだけど、ダイゴくんってこういう新作が出る度にSNSで話題になるカフェチェーンのラテなんて興味あったっけ。わたしが飲んでて一口いる?って聞いても遠慮してたと思うんだけど。
 それに、わざわざ人の多いカナズミ店を選ぶのもおかしい。トウカシティにもあるんだし、そっちの方が人も少なくすぐに席に座れるのに、どうしてカナズミなんだろう。案の定、かっこいいダイゴくんは近くの席に座る女の子からヒソヒソと噂されている。そのせいでわたしの心は少し窮屈だ。今すぐここを出て人の目が少ない場所に行きたい。
「{{kanaName}}、そこ付いてる」
 飲み物だけでいいのかい?と妙な圧を掛けられ頼んでしまったケーキを急いで食べていたら、ダイゴくんがくすくす笑ってわたしの頬を指差した。手を止め、その指先を追うように口の端を触ってみる。
「そっちじゃなくて……ここ」
 椅子から腰を浮かせ、ダイゴくんが手を伸ばす。人差し指の腹がわたしの頬に触れ、口の端から何かを掬い取った。いつの間に付いたんだろう、ケーキを飾り立てていたクリームだ。
「ゆっくり食べなよ」
 ダイゴくんはそう言うとクリームの付いた指先を口に含んで綺麗に舐め取った。甘いね、と楽しそうに笑う。
 絶対におかしい。ダイゴくんはこんな事しない。
 いつものダイゴくんはもっと理知的で、もっとTPOを弁えて、こんな誰が見てるか分からない場所で軽率な行動はしない。ダイゴくんは超一流企業の御曹司でチャンピオンで、もしこんな場面を記者に見られでもしたら――
 その時、視界の隅で何かが光った。カメラのフラッシュのようなそれに慌てて振り返る。学生が頼んだラテを片手にポーズを取っていた。わたし達を撮った訳ではなさそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。
 でもここに長居してたら次こそ本当に撮られてしまうし、もしかしたら既に撮られているかもしれない。すぐ食べるから、とわたしはフォークを握り直す。なのに。
「どうして?」
 頬杖をついたダイゴくんが首を傾げる。まっすぐにわたしを見て、言葉自体は質問口調なのに浮かんだ表情は満面の笑み、全て分かった上でそれでも白を切っている。一体全体、ダイゴくんはどうしちゃったんだろう。何かあった時に大変なのはわたしよりもダイゴくんで、だから早く別の場所――人がもっと少なくて落ち着ける場所に行こうとしてるのに。分かってるくせに、本当に最近の、今日のダイゴくんはおかしい。じぃっと見つめてみたら、ダイゴくんがふっと息を吐いた。
「ボクさ、改めて天秤に掛けてみたんだ」
 ダイゴくんがラテを手に取る。一口飲んで「{{kanaName}}のも美味しいね」わたしに返した。もう訳が分からない。普段からこういう事をするなら兎も角、流石にこれは友人だとは誤魔化しきれない。どうか面倒な人が見てませんように、と祈るしかない。
「きみを大事に隠しておく方がいいか、それともボクのものだって見せびらかすべきか」
「見せ…、えっ?」
 ダイゴくんが今しがた口を付けたストローから顔を上げる。真剣な表情と少し赤らんだ頬があった。ダイゴくんはその氷のように透き通った瞳でわたしを見つめて言葉を続ける。
「ボクと{{kanaName}}のこと、みんなが気付いている方がきっと良いよ。だから今日はまだここに居るし、そのケーキもボクに一口食べさせてくれるよね?」
 わたしの中の天秤が動く。ぐらぐらと揺れて傾いた時、わたしの掬ったケーキはダイゴくんの口の中に溶けていた。