可愛いダイゴさんを見たくてお願いする夢主
人工島パシオでは毎日色んなイベントが催されている。今わたしが眺めているチラシもそんなイベントのひとつを宣伝したものだ。 『真夏のウィンターフェス』 氷タイプのポケモン達をかき集め、夏真っ盛りのこの時期に雪まつりを開くのだとか。縁日お決まりの屋台が並び、雪まつりらしく雪合戦があって、氷像コンテストなんかも開催されるらしい。雪合戦はともかく、いくら氷タイプのポケモン達に協力してもらってもこんな暑さで氷像なんて流石に無理だと思ったら、どうやらとけないこおりを使って作るんだとか。あれも全く溶けない訳じゃないけれど、フェスの期間くらいなら何とかなるみたい。 よくそれだけの量を用意出来たなぁと感心しながら、視線をチラシからダイゴさんに向ける。ここパシオで彼に割り当てられた部屋は決して狭くはないのによく分からない人物像があったりトクサネの家よろしくずらりと並んだ展示ケースに石が陳列されて、どうにも部屋の広さを実感できない。ダイゴさんはそんな中、ソファで新たに手に入れた鉱石を丁寧に磨いていた。 「ダイゴさんって『パシオ・ザ・スター決定戦』で優勝したんですよね」 質問したところ申し訳ないけど、返事は聞かなくても分かっている。だってわたしも最前列で見てたから。でも当の本人は忘れているかもしれない。石とポケモン以外には興味の薄い人だから、その可能性も十分に有り得た。 ダイゴさんはわたしの声に手を止め、顔を上げる。 「そんな事もあったね。サンドパンの腕試しになって楽しかったな」 その時を思い出したんだろうか、ダイゴさんは腰に提げたサンドパンのボールを彼そのもののように優しく撫で柔らかな笑みを浮かべる。バトルの最中に見せる冷ややかで冷徹で、一分の隙も見せず的確に相手を攻める姿からは全く想像出来ない、穏やかな笑顔を。 「でも、それがどうかしたのかな」 訝しがるようにちょっと眉を寄せて、けれど問い詰めるつもりもないらしく頬には笑みが浮かんだままで。意図的なのか無意識なのか、あざとく首まで傾げてくる。 氷のように透き通ったアイスブルーの瞳がわたしの瞳をまっすぐに捉えた。刹那、真夏の太陽にも負けないくらい頬が熱くなる。鼓動も急加速して胸を突き破ってしまいそう。それをどうにか隠してダイゴさんへ持っていたチラシを見せる。コトネちゃんと真っ白なアローラロコンが大きく映るフェスのチラシを。 「ダイゴさんはこういうの、やらないんですか」 たしかパシオ・ザ・スターになったらパシオのイメージキャラクターとして広報活動に問答無用で協力する事になっていたはず。現にコトネちゃんはこうしてイベントの顔として活動しているのをよく見掛ける。 でも同じチームだったダイゴさんにはそういう様子は一切なくて、ホウエンに居るのと変わらず趣味で山を掘ったり不気味な噂を個人的に調べたりと、ひとり自由にパシオを満喫してばかり。絶対に広告塔として絶大な効果があるのに、全然ちっとも見掛けない。 「もちろん、頼まれれば協力は惜しまないよ。〝それ〟だって氷像用にとけないこおりを準備したから、ボクなりに協力はしたつもりなんだけどね」 無理難題に思えた氷像コンテストはダイゴさんのお陰なのか。石の為ならどんな場所にも行くんじゃないかってくらいあちこちの洞窟や山を巡っているから、有り余るほどのとけないこおりが採れる場所を知っていてもおかしくない。そうなんだ、と思わず素直に感心してしまう。 でも、それはイメージキャラクターとしての協力じゃあない。わたしはこのチラシに可愛く映るコトネちゃんのようなダイゴさんが、とても、すごく見てみたいのだ。絶対に、間違いなく、ファンだってそれを望んでいる。 「それにこういうのは可愛い女の子がする方が見映えも何も良いじゃないか」 けれどダイゴさんは分かってないのかわざとなのか、そう言って肩を竦める。自分の容姿が平均以上の自覚はあるのに、それ以上の事は考えない。かっこいいダイゴさんの可愛い一面を見たい人間の存在を、全然分かってくれない。わたしは目に力を込めて大きく見開くと睨むようにダイゴさんを見つめた。 「やってみなくちゃ分かんない!……です」 ただただわたしが見たいだけ、という煩悩を必死にオブラートに包み込んでチラシ片手にダイゴさんに詰め寄る。チラシの中のコトネちゃんはフェスのテーマポケモンであるアローラロコンを真似して、両手でロコンを作って可愛くポーズを取っている。 確かにこれは可愛い女の子が取るのが最適解なポーズだろう。でも、ダイゴさんの笑顔だってコトネちゃんに負けないくらい可愛いのをわたしは知っている。このポーズも絶対に似合う。絶対に、似合う。 「きみも物好きだね。ほら、これで気が済ん……{{kanaName}}?」 持っていた鉱石とヤスリを置いて、ダイゴさんが苦笑まじりにコトネちゃんの真似をした。つまり、両手はこめかみの辺り、人差し指と小指をぴんと立てて残りの指でロコンの顔を形作り、極めつけにこてんと首を傾げて唇に綺麗な弧を描くと、わたしに微笑んだ。 瞬間、わたしの脳内可愛い計測メーターがぎゅんっと振り切れ、完全にキャパオーバーを起こした。回路が焼き切れるように頭が真っ白になる。 反射的にぎゅっと目を瞑り、チラシを盾のように構えて顔を守る……もとい隠す。あと1秒でも視界をそのままにしてたらどうなっていたか分からない。きっと今ごろ心臓は爆発してオクタンよりも真っ赤な顔をダイゴさんに晒し出していたに違いない。 「ほら、ね。こういうのはコトネちゃんに任せた方がいいだろう?」 やれやれ、と大きく息を吐く音が聞こえる。その反応はどうやらわたしの奇行を悪い方に捉えたらしい。見るに耐えれなくて顔を背けたんだ、と。 そんな訳あるはずないのに、ダイゴさんは妙なところで謙虚になる。この世で可愛いダイゴさんを拒否して否定する人間が一体どこに存在するんだろうか。慌ててチラシの盾を顔の前から外して弁解に入る。 「そうじゃな」 「コンコン――なんてね?」 くすくす笑ってダイゴさんが両手のロコンを声に合わせて揺らす。わさとらしいため息もやけに渋った様子を見せていたのも全部この瞬間の為だと気づいても時すでに遅し。わたしの浅はかな欲求は、とけないこおりすら溶かしてしまう程に火照った肌と耳まで真っ赤になった顔、それから限界を越えて情けない悲鳴となってダイゴさんに暴かれていた。