「そういうところだぞ」

夢主に知られたくない一面をバラされそうになって焦るダイゴ

「アイツ、いっつも澄ました顔してるけど実は相当――」
「やあカゲツ! 飲み足りないって顔してるね」
 わたしは今、カゲツさんに誘われて居酒屋にやって来ていた。カゲツさんがリーグのスタッフに声を掛けて飲みの席を開くのはよくあることで、今日のこれもその一つだ。わたしの他にもスタッフが何名かと、四天王の皆さん、それから今会話を遮るようにこっちのテーブルへやって来たダイゴさんが楽しく食事をしている。少なくとも今までは。
 ドンッ、と勢いよくテーブルに置かれたのは栓を開けたばかりのワインボトル。嫌な予感にダイゴさんの方を向けば、彼は持ってきたグラスになみなみとワインを注ぐとカゲツさんへぐいと押し付けた。カゲツさんが「げっ」とあからさまに嫌そうな顔をしたけれど、ダイゴさんは構わずグラスを押し付ける。そうして渋々受け取った彼に満面の笑みを浮かべると、悪魔のような一言をカゲツさんへ向ける。
「飲まないのかい?」
 強面の見た目のせいかお酒の強そうなイメージのあるカゲツさんだけど、その実それほど得意ではないようで、今日もちびちびとビールを啜っているだけだった。一介のリーグスタッフであるわたしでも知っているのだから、当然ダイゴさんも充分承知のはず。けれどダイゴさんはカゲツさんの隣の座布団へ腰をおろしてゆるく胡座を組んで居座ろうとしている。飲み切るのを見届けるまで退かない、という強い意思表示がなされていた。
 ちらりとカゲツさんを見る。カゲツさんはどうにかあの悪魔みたいな青年を追いやろうとあれこれ言葉を並べ立てているけれど、一切効果がなくて横顔に焦りを滲ませている。
 飲みすぎたカゲツさんはちょっとした事でも大泣きしてとても扱いに困るので、このピンチはわたしのピンチでもある。どうしよう、助けを求めて周囲を見渡すと、空いたグラスが見つかった。これしかない。
「あのっ、ダイゴさんは飲まないんですか?」
「えっ? いや…、でも、グラスがないから」
「それなら! ここにありますよ」
 コンッ、とダイゴさんの目の前にグラスを置く。とたんにダイゴさんの顔から余裕が消えていく。カゲツさんにひどい要求をしたくせに、この人もまたお酒は強くないのだ。どうして突然バカな事を言い出したのか知らないけど、そういうのはやり返される覚悟がないなら止めるべきで。ダイゴさんはさっきの威勢が嘘みたいに大人しくなった。どうにか危機は回避出来たようだ。
 静かになったダイゴさんにカゲツさんもほっと胸を撫で下ろす。そして、
「お前そんなにムッツリだってバレたくなかったのかよ」
わはは、と大きな笑い声と共に遮られた話題に再び戻った。あっ、とダイゴさんへ視線を移す。僅かに血色の良かった頬がみるみるうちに色を濃くしてゆく。
「なっ!カゲ…ッ、きみ!」
 ダイゴさんの怒ったような瞳がカゲツさんを睨み、けれどすぐにその隣に座るわたしへと向けられる。困ったような慌てたような、とにかく普段なら絶対拝めない表情がそこにあった。
「ち、違うんだ{{kanaName}}、ぼくは別にそんな事はなくて!」
 よっぽど焦っているみたいで、ダイゴさんは珍しく狼狽えながら何度も違う違うと必死に言い続けている。何だかそれがひどく滑稽で、思わずふふっと笑い声を上げてしまった。ダイゴさんがすぐさま反応してカゲツさんに八つ当たりする、きみのせいで{{kanaName}}に笑われただろう、と。
「そんなに慌てなくても、とっくの昔に知ってました」
「あ、えっ」
 誰にも飲まれなくて寂しそうなグラスを持ち上げる。わたしもそれほど強くはないし、これを一気に飲むのはきっとよろしくない。でもアルコールで軽くなった頭は真面目に働かないし、そろそろ男二人でいちゃつかれるのもつまらなくなってきた。ダイゴさんはわたしの恋人なんだから。
 ぐいっと一思いに飲み干して、口端から零れたワインを親指で拭う。そうして火照ってきた体を冷ますためにシャツのボタンをひとつ外す。ムッツリのダイゴさんは素直にわたしの胸元を注視して、けれどはっと我に返ると「{{kanaName}}、ダメだよ!」あわてて手を伸ばして外したばかりのボタンを留めた。
「カゲツ、{{kanaName}}は随分酔ってるみたいだから、ボク達はもう帰るよ。さ、{{kanaName}}、行くよ」
 ダイゴさんの熱くなった手がわたしの腕を掴んで立ち上がる。酔って感情が隠せなくなっているのはダイゴさんの方なんだけど、黙っておけと残り少ない理性が忠告する。そんなわたしの代わりに、カゲツさんがにやりと笑う。
「そういうところだぞ」