真面目な顔するダイゴとそれに惚けた自分が恥ずかしい夢主
ダイゴさんは忙しい。ホウエン地方のチャンピオンで、その上家はあのデボンコーポレーション、忙しくないはずがない。今日もお休みだっていうのに朝からパソコンに向き合って忙しそう。お陰でわたしは放ったらかしにされていて、そろそろ暇つぶしに磨かれ続けるココドラが発光してしまいそうだ。 「……ん、ありがとう」 これじゃあダメだとキッチンを借りてコーヒーをいれた。と言ってもよくあるインスタントコーヒーでわたしはお湯を沸かしただけ。それでもダイゴさんはまるで極上の一品を飲んだみたいに満面の笑みを浮かべて笑う。 「{{kanaName}}にいれてもらうと何だかいつもよりすごく美味しいよ」 こんなのご機嫌取りだって分かってるのに、ダイゴさんの笑顔は本物でむず痒くなってくる。ダイゴさんだって意地悪で仕事を優先してる訳ではないんだから、とついつい許してしまう。いれたコーヒーに対してわたしの態度は随分甘かった。 コーヒーを飲み終えた私は、逃げるココドラは後回しにしてダンバル磨きに取り掛かる。ローテーブルに広げた様々な手入れ用品で銀色の爪が鏡になるほど丹念に磨いていると、それまでカタカタと聞こえていたキーボードの音が止んでいるのに気付いた。あれ、と振り返る。いつの間にかダイゴさんがパソコンを置いたデスクを離れてわたしのすぐ傍のソファに腰を下ろしていた。でも仕事はまだ終わってないみたいで、手にした書類をじっと眺めている。 わたしに微笑む柔らかな表情とも、ポケモンと接する時の明るい笑顔とも違う、真剣な眼差しだった。見ていると、時折ほんのわずかに眉間にしわを寄せて険しい顔を作った。口元へ指を掛け考え込むようにじっと一点を見つめてもいた。ゆっくりと繰り返される瞬きがまつ毛を揺らし、たったそれだけの事なのにわたしの目は一瞬も見逃すまいとダイゴさんに釘付けになっていた。 「ダババッ」 「ひゃっ!」 突然、耳元で声がした。手の止まったわたしを待ちきれないダンバルだ。とびきり大声を出した訳ではなかったけれど、ダイゴさんに視線も意識も奪われていたわたしには突然の雷ほどびっくりする事で。胸を突き破りそうな心臓をどうにか抑えていると、ふふっと笑う声がつむじに降ってきた。書類からわたしへ視線を移したダイゴさんが笑っている。 「大丈夫かい?」 「だっ、大丈夫…、です。それよりダイゴさんの方が、」 「ボク?」 「書類を見て、難しい顔してたから」 「ああ、これの事だね」 ダイゴさんが左手に持った書類を揺らす。わたしからは書類の内容はまったく見えない。けれど三つ折りにされた跡は見えたから、書類というよりも手紙の類かもしれない。うっすら透けて見える文字の並びも何となくそう見えた。 「そうなんだ、聞いてくれるかい?」 わたしなんかで良ければ、と首をこくこくと縦に振る。ダイゴさんが口角を上げて微笑んだ。どきりとしたのはわたしだけの秘密であってほしい。 「今度うちで仮装パーティを開くんだ。それで仮装をどうしようか迷っていてね」 「ダイゴさんなら何でも似合いますよ」 「ボクじゃなくてきみだよ。折角の機会だからこういう時にしか着てくれないものが良いと思うんだけど、一つに絞れなくて困ってたんだ」 ついさっきまで浮かべていたダイゴさんの表情を思い出す。紙に刻まれた文字に落とされた眼差しは真剣そのものだった。戦略を練るように、考えを巡らせて深く思案した顔をしていた。とてもパーティの服装選びに悩む顔には見えなかった。 けれどぴらりと向けられた書面は本当にハロウィンパーティのお知らせで、たしかに仮装をしてこいと書いてある。深刻な問題も重要な議題も見当たらない。 「どうしようか」 ダイゴさんが肩を竦めて少し困ったように笑う。あの悩ましい表情に抱いた時めきが何だか恥ずかしくて、ダイゴさんが抱えた問題があまりにちっぽけな事に拍子抜けして、あんなに真剣に考えていたのがわたしの事であるのがむず痒くて、ぶわりと顔が熱くなる。今日一番深刻な顔をして考えていた事がそれだなんて、信じられない。 だからいつもなら何時間だって見ていられる青い瞳から顔を背けて「知らないっ」そっけなく言葉を返した。素直じゃないわたしにダイゴさんが小さく息を吐く。 「ふふっ、きみの期待に応えられるものを用意するのは大変そうだ」