dimmi cos'è l'amore
-愛とは何か教えて-

とある理由でダイゴから逃げていた夢主が捕まって問われる
お題お借りしました→icca

 ホウエンリーグのチャンピオンは聡明で勇敢で分け隔てなく優しく、さらに顔立ちも整っていて恋に落ちない方がおかしい存在だ。テレビ越しに見てもそうなのだから、リーグスタッフとして日々ダイゴさんと接すれば強く恋愛感情を抱くのは当然で。わたしは少しでも彼に覚えてもらおうと、出くわす度に笑顔で挨拶をして、頼まれた仕事はきっちり完璧にこなした。その甲斐あってダイゴさんはわたしの名前を覚えてくれて、他のスタッフより少し親しい位置に収まることが出来ている。
 けれど最近、わたしはダイゴさんを避けていた。何か用があって事務フロアにやって来る彼を見付けたら無理やり理由を作ってフロアから逃げた。食堂であの美しい銀髪が視界に入ったら絶対に顔を上げずに気配を消すことに専念した。それでも鉢合わせてしまった時は、ダイヤモンドより煌めく瞳に絆されないよう視線を逸らし続けた。ダイゴさんを目の前にするとあの日の記憶が蘇って、そんな資格――今まで通り親しく接する権利はないのだと――逃げることしか出来なかった。
 それなのに。

「ねぇ{{kanaName}}」

 わたしは今、鼻がくっつきそうな距離まで近づいたダイゴさんと壁が作るほんの小さな隙間に閉じ込められていた。

「どうして逃げるんだい」

 唇がゆっくりと音を紡ぐ。わたしをじっと見つめる目から逃げようと視線を下げたら嫌でもその唇が目に入って、視界からダイゴさんを追い出そうと強引に顔を背けた。片方の頬に壁の冷たさを、もう片方にはダイゴさんの気配を感じて心臓が忙しく鼓動を速めていく。

「もしかしてボク、きみにひどい事しちゃったかな」
「そっ、そんな事!」

 しょんぼりとした声に、気づけば体が反射的に動いていた。弁解するように口が開いて、背けた顔がダイゴさんへ向く。
 目が合った。うっすらと青の滲んだガラス玉みたいな透明な瞳がわたしを見つめている。こんな時なのに胸が高鳴って体が熱い。胸の奥で必死に抑えていた感情が制止を振り払って溢れ出てくる。ダイゴさんがふふっと小さな笑い声を上げる。

「{{kanaName}}、気づかないフリも大変なんだ。そろそろ逃げるのもおしまいにしないかい?」

 どくどくと心臓が鼓動を刻む。今にも胸を突き破ってしまいそうなほど、強く激しく鼓動する。それが何か聞きたいけれど、聞くのが怖い。そんなわたしにダイゴさんはまた笑って言葉を続ける。

「実はボクさ、あの時起きてたんだ」

 サイユウリーグには様々な施設がある。練習用のバトルフィールドにトレーニングルーム、歴代の名勝負を収めた資料保管室や懺悔室とも渾名される用途不明の小部屋なんてのもある。忘れてしまいたい記憶はその中のひとつ、仮眠室での出来事だった。
 あの日わたしは仮眠室で休憩するダイゴさんを、頼まれた時間に起こしに向かった。けれど、いつもならすでに起きてるダイゴさんがその日に限ってまだベッドの中で丸まっていた。
 魔が差してしまった。そうとしか言えなかった。引き寄せられるように眠るダイゴさんに顔を近付けたわたしは、そのまま重力に従って唇を落としていた。ふにゅ、と唇に伝わる柔らかさは数週間経った今でも忘れられない。
 我慢が出来ずに奪ってしまったそれは、ひどく甘美で背徳的で、けれど猛烈に罪悪感を呼び起こした。欲しいものは正しい手順で手に入れなければ意味がない、そう気付いてももう遅くて。わたしはダイゴさんを起こすのも忘れて仮眠室を出て行った。そしてあれ以降、わたしはダイゴさんから逃げ続けた。

「どうしてあんな事したのか、理由が知りたいんだ」

 顔が近い。視界にはダイゴさんしか映らない。怒るでも非難するでもない、それどころか楽しげにさえ見える笑みがわたしの瞳に映る。わたしは胸の中で膨れ上がる様々な感情に耐えきれず俯く。けれど注がれる眼差しはそんなわたしさえ真っ直ぐに見つめてきて。激しく鼓動する心臓に痛みを感じながら視線を上げる。清流の涼やかさに似た澄んだ青がわたしの瞳を捕らえ、ふっと笑った。

「どうしてだい?」
「それ、は」

 ダイゴさんの唇が滑らかに動く。少し体を動かせば触れてしまいそうな距離にそれがある。いっそ強引に奪ってくれたらいいのに。だってこんな事をするダイゴさんはきっと。

「ボクに教えてよ」

 唇が弧を描く。アイスブルーの瞳がきらりと輝いている。いざなわれ、わたしの口が理由を紡ぐ。ダイゴさんが満足したように笑みを深めてわたしと影を重ねた。