純粋下心

幼なじみのダイゴくんに恋人役を頼んだら本気を見せられる

 ダイゴくんは親同士が友人で小さな頃から付き合いのあるお兄ちゃんみたいな存在で、いわゆる幼なじみだった。だから今のチャンピオンをしているダイゴくんはカッコイイと思うものの、どちらかと言うと『自慢の兄』のような感覚で。小さな頃から一緒にいて、本当の兄妹みたいに遊んでいたから今さら特別な感情なんて湧いてこなかった。
 それでも今、わたしはそんな『お兄ちゃん』を『彼氏』にしている。

「ダイゴくんに彼女いないなんて意外だったよ」

 トクサネのダイゴくんのお家でわたしはごくんと麦茶を飲む。ここはダイゴくんがチャンピオンになって暮らし始めた家で、来るのは初めてだった。昔は互いの家を行き来して頻繁に遊んでいたけれど、ダイゴくんが旅に出てからは時々パーティで顔を合わせるくらいしか会える機会がなくなっていた。だから一人暮らししてるのも最近知ったばかりだ。

「でも本当に良かった!ダイゴくんならうちの両親も文句言わないからすごくラッキー!」

 ダイゴくんには遠く及ばないけど、わたしもいわゆるお嬢様で、最近は親が交友関係――主に交際について少し煩くなっていた。わたしは熱く燃え上がるような恋愛もしていないしそんな予定もなかったから、ちょっと煩わしく思っていた。
 そんな時にたまたまダイゴくんに会って、ダイゴくんなら別に良いかなと思って「彼氏になってください」とお願いしてみた。ダイゴくんは最初こそビックリしていたけれど、わたしの事情――親が煩くて黙らせたいという我がままを聞いて、呆れたように笑いつつも「いいよ」と承諾してくれた。昔も今もダイゴくんは頼れるお兄ちゃんだ。

「それにしても…、ダイゴくんはダイゴくんのままだね。この家にもいっぱい石飾ってる」

 久しぶりに会った時、わたしの知るダイゴくんよりかっこよくなってきたから少しだけどきりとした。でもダイゴくんは何も変わってないみたい。石が好きではがねポケモンが大好きなダイゴくんのままだった。ほっと安心する。

「あっ、この赤い石ってダイゴくんのカナズミのお家にもあったんじゃない?」

 展示台に並べられた石をよく見ようと、ダイゴくんのベッドの上で膝立ちになる。ノズパスみたいにのそのそと動いてベッドの奥にある展示台を覗き込んだ。やっぱりそう、この石は見覚えがあった。

「ねえダイゴくん、これ……って、どうしたの」

 振り返ったらダイゴくんが難しい顔をしていた。眉間にしわが寄っていて、何だか怒っているようにも見えるし困った顔にも見える。わたしの前ではいつも笑顔だったから、真剣な表情のダイゴくんにちょっぴり面食らってしまった。

「あのね{{kanaName}}ちゃん」

 ダイゴくんがわたしの肩に手を置く。

「きみにとってボクは『お兄ちゃん』みたいな存在で『彼氏役』にちょうどいい存在なのかもしれないけどさ、」

 わたしの知ってるダイゴくんの手はもっと小さくて、わたしとほとんど変わらなかった。なのに肩に置かれた手はやけに大きくて、何だか男の人みたいだった。

「ボクだって男だよ」

 負けず嫌いのダイゴくんが、わたしの相手をしてくれる時だけは我慢して勝ちを譲ってくれていたと気付いたのはいつだったっけ。それは兎も角、ダイゴくんがちょっぴり唇を尖らせて頬をうっすら赤くしている時は何かをぐっと堪えている時なのは事実で。
 じゃあ今ダイゴくんは一体何を我慢しているんだろう。そう自問して、すぐに答えが返ってくる。まだまだ男性経験の足りないわたしでも、そこまで疎くない。

「ごっ、こめんなさい!」

 慌ててベッドから飛び降りる。わたしは全然そんなつもりじゃない。だってダイゴくんは仲の良い『お兄ちゃん』で『そういう相手』じゃない。でも今ダイゴくんはわたしの『彼氏』をしてくれてて、つまりそれは『そういう相手』って事で。でもそれは親が煩いからで、わたしはそんなつもり――

「{{kanaName}}ちゃん」
「ひゃっ!あっ、え、なっ、何?」
「おいでよ、ボクのお気に入りの石を見せてあげる」

 ダイゴくんが片膝をベッドについてわたしを呼ぶ。にっこり笑ったその顔はいつものダイゴくんだ。
 なんだ、ダイゴくんってばいつの間にか演技まで上手になっていたみたい。ああビックリした。わたしはダイゴくんに倣ってもう一度ベッドに上がる。
 けれどさっきと違って妙にドキドキして、ダイゴくんの話はちっとも頭に入ってこなかった。