ダイゴに迫られたい夢主がココアに媚薬を仕込む
ミステリーに出てくる犯人もこんな気持ちなんだろうか――わたしは暖かいエネココアを注いだマグカップがいつテーブルを離れ口を付けてもらえるか緊張しながらその時を待っていた。 湯気の立つココアは見た目通り少し熱く、ターゲットのダイゴさんは一度カップを手に取ったものの飲む前に置いてしまった。直前にわたしが「あつっ」と言ってしまったのが悪かったのかもしれない。まだ少しヒリヒリする舌に自分のそそっかしさを恨む。 それから暫くしてココアの湯気も収まってきた頃、再びダイゴさんがマグカップを手に取る。いよいよだ、やっとだ! わたしは興奮を必死で隠しながらダイゴさんを見守った。けれどいざココアがダイゴさんの口の中に流れこもうとした瞬間、 「コッコ!」 「いっ……!」 小さな鉄の塊、もといココドラがわたしの足にとっしんしてきて肝心な瞬間を見ることが出来なかった。 ココドラは人間二人がいつまでもテーブルに着いてお喋りしているのが不満だったようで、わたしのすねに頭突きをした後はダイゴさんにも同じように頭をぐりぐりと擦り付けている。肝心のエネココアはテーブルに戻され、ダイゴさんの手はマグカップではなく我がままなココドラを抱き抱えていた。 わたしはバレないようにカップを覗き込む。白いマグカップには、どうやら飲んだらしい跡が残っている。でもあまり量は減ってない。これで大丈夫なんだろうか。不安になったけれど0でないなら何かしら効果は現れるはず。わたしは自分のココアを飲み干すと「ココドラ、遊んであげるよ」立ち上がってココドラを呼んだ。 結果から言うと、今回もまた作戦は失敗だった。飲んだ量が少なかったのかダイゴさんには効かないのかそれとも熱すぎるココアのせいで効果が薄れたのか、何にせよダイゴさんはいつも通り、何も変わらなかった。 効果が現れるのを今か今かと楽しみにしていたわたしは、しかしいつまでも平然としているダイゴさんにわたしの方が耐えられなくなってしまった。楽しそうに石の話をしてくれるダイゴさんの隣にぴったりくっついて座り、その腕に自分の腕を絡めて時々体を寄せて、甘えるように上目遣いでダイゴさんを見つめる。ベッドに恋人と腰掛けこんなにも密着したらする事は一つなのに、それでもダイゴさんは石の話に夢中だった。 「――――って事があって、今度からは」 「ダイゴさん、」 思い切って胸を押し当てる。そしてもう一度、今度はもっと熱っぽく「ダイゴさん」名前を呼んだ。ダイゴさんがさっきまでとは違う笑みを浮かべる。 「ふふっ、何だい?」 悔しいけど、今日もまたわたしの負けだ。 初めてこそダイゴさんが最初からリードしてくれたのに、2回目からはいつもこんな調子だった。強いトレーナーとして精神力を鍛えているからなのか何なのか、ダイゴさんからわたしを押し倒したりちょっかいを掛けてくることはない。 だからこそ最近は無理やりにでもその気になってもらおうとあやしいお薬――いわゆる媚薬をあの手この手でダイゴさんの食べ物に仕込んでいるのに、それもことごとく失敗している。今日こそ成功したと思ったのに。悔しい、すごく悔しい。 「もう、分かってるくせに!」 何だか腹が立って、ドンッとダイゴさんを押しやった。一切の抵抗もせずベッドに仰向けになったダイゴさんが両手を伸ばす。 「あはは、ごめんごめん。ほら、おいでよ」 伸びた手がわたしを掴んで引き寄せる。倒れた先の胸板からダイゴさんの鼓動が響いた。気のせいかもしれないけれど、何だか少し速いように感じた。 もしかして。僅かに期待を抱いてダイゴさんを見る。宝石のように澄んだ青がわたしを見つめている。いつもの眼差しと変わらない。けれど、ポケモン達を褒めるようにわたしの頭も撫でたと思ったら顎をぐっと掴んで少々乱暴に唇を塞がれた。 「んぅ…、っ!」 甘い何かが舌と共に咥内に押し入ってくる。形状は丸くて飴のようで、舌触りからタブレット菓子のようだ。 ダイゴさんはそれをわたしに押し付けるとすばやく舌を抜き唇を離す。何故かひどく楽しそうな顔をしている。 それよりこのタブレットは一体いつの間に食べていたんだろう。全然気が付かなかった。形もしっかり残っているし、まるでわたしに食べさせるために口に含んでいたみたい。 「{{kanaName}}は見すぎなんだよ。そんなのじゃ流石に引っ掛かってあげられないよ。それならいっそ今のボクみたいに強引にした方がよっぽど成功率は上がるんじゃないかな……何をしたいのか知らないけど」 さあっと血の気が引くとはこの事か。いつもやけに勿体ぶって最終的に媚薬入りの食べ物を回避すると悔しく思っていたけど、まさかバレてて遊ばれていたなんて! じゃあもしかして今食べさせられたこれはお菓子じゃなくて、まさか。 「ああ、心配しないで。それはまだ普通のタブレット菓子だから」 ダイゴさんが含みを持った笑みを見せる。どくどくと心臓の音が大きくなって鼓動が速くなる。本当にお菓子なんだろうか。ただイタズラがバレたせいでドキドキしているだけなんだろうか。顔に血が集まるのを感じて、身体の芯から熱くなっているのも、わたしの身体が勝手に反応しているだけなんだろうか。 「ほ、本当に……?」 わたしの質問にダイゴさんはしかし微笑むだけで、返事の代わりにぎゅうぎゅうと抱きしめられ、いつの間にか答えはどうでもよくなっていた。