とっくの昔に脈がないと諦めていた夢主といつか振り向いてもらえるかもと隣を守り続けたダイゴ
人生という物語の主人公は自分自身だとよく言うけれど、そんなのただの詭弁だ。だっておとぎ話の主人公は辛く苦しい事があっても最後は必ず運命の相手と結ばれてハッピーエンドを迎えているのに、わたしは好きな人に振られてまた失恋の痛みを味わっている。明るい未来は見えてこない。 長い溜め息を吐きながらピッケルを持った手を適当に動かす。ピッケルの先端がコツコツと岩壁を叩いて小さな礫が剥がれ落ちる。 隣で同じように石を探すダイゴは真剣そのもので、ピッケルが小気味よい音を立てて岩壁に走る亀裂をどんどんと拡げてゆく。勘の良いダイゴのことだから次もまたあっという間に目当ての石を見つけそうだ。わたしと違ってダイゴはちゃんと自分の人生の主人公をしているから、こんな所でも思うがままに事が運ぶ。 「{{kanaName}}。危ないからきみはこっち」 何度目かの溜め息を吐いたら、突然ダイゴにピッケルを取り上げられた。代わりに渡されたのは土まみれのほのおのいしと布で、綺麗に磨けということらしい。ちらりと横目でダイゴを見る。先程見つけたほのおのいしでは満足出来ない彼は一心不乱に岩を掘り進めている。 最初は岩壁に出来た小さなひび割れだったのが、あっという間に大きな穴になっていく。そこをライトで照らして中を確認して、またピッケルを打ち付ける。本当なら今日のダイゴは別の場所で違う石を探す予定だったらしいのに、不満や文句のひとつも漏らさずほのおのいしを探している。 イーブイを進化させたい――そうダイゴに電話したのは今から半日ほど前、夜もすっかり更けた頃だった。どの石が欲しいのと聞かれ、どの石ならあるかと聞くとほのおのいしだけは渡せるものがないと返ってきた。 だからわたしはブースターに進化させたいと言って、そうして今、ダイゴとほのおのいしを探している。わたしまで石探しに来るつもりはなかったけれど、ダイゴから一緒に来て欲しいと言われたから着いて来てあげた。 手渡されたほのおのいしに目を落とす。どうぐとしては十分に機能を発揮できるそれはしかし、店で売っている物よりは一回り小さくて八の字のようないびつな形をしていた。ダイゴが満足出来ないのは仕方がないのかもしれない。 だとしてもひとつ見つかれば充分なのに、ダイゴの石好きには少し呆れてしまう。思わずため息が零れた。 「{{kanaName}}は理想が高すぎるんだよ」 不意にダイゴが口を開いた。顔を上げると何故か少し怒ったように眉間にしわを寄せるダイゴと目が合う。 「たしか『優しくてかっこよくて、ポケモン勝負も強くて、それから我がままを聞いてくれて甘えさせてくれる人』……だっけ? そんな人にはライバルがいて当然だし、そうじゃなきゃとっくに恋人が居るに決まってるよ」 「そんなの…、分からないでしょ」 視線をほのおのいしに戻す。わたしの理想をそこまで高くした張本人のくせに、何も知らずに正論を説くダイゴに少し腹が立つ。 ダイゴが告白すら許さずわたしを振ってさえいなければ、きっとこんな事にはなってない。満面の笑みで「{{kanaName}}は最高の友人だよ」とさえ言われなかったらわたしはきちんと告白して失恋して、今頃ダイゴへの未練を引きずることなく恋人を作ったり楽しく恋愛出来ていた。 それなのに分かった風に身の丈に合った恋をしろだああだこうだ言ってくれて、ダイゴって本当にわたしの事を「だから…って訳じゃないけど、さ」友だちとしか見てくれてないんだろうな。それを悲しむ涙は流石にもう枯れてしまったけれど、代わりにため息が零れる。 「{{kanaName}}、」 拗ねたように名前を呼ばれたから「はいはい、聞いてるよ」とほのおのいしの泥を落としながら返事をした。私たち親友なんだから少しくらい聞く態度がおざなりになっても許してくれていいじゃない。 遠くで鳴くポケモンの声とどこかで水滴が落ちる音が洞窟に響いている。それ以外の音はどこかへ隠れたみたいに聞こえない。そういえば、ダイゴのピッケルの音がいつの間にか止まっている。かと言って大きくなったひび割れから石を取り出す気配もしない。代わりに頬に視線を感じる。何なのだろう、顔を向けた。 「ボクにしない?」 困ったように笑うダイゴは、しかし真剣そのものの表情をしていた。 二人並んで石を掘っている間に、一体どんな真面目な会話をしていたっけ。言葉の意味と眼差しの理由が分からず視線が揺れる。聞き間違いじゃなかったら、ダイゴは今とんでもない事を言っている。 「優しいとかかっこいいは分からないけど、ポケモンの腕には自信があるし{{kanaName}}の我がままなら喜んで聞いてあげる。それに甘えたい時はいつでもボクを呼んでよ、すぐに飛んで行くから」 怪我防止の為にわたしもダイゴも軍手を嵌めていて、だからそんな状態でぎゅっと手を握られても絵面は少し滑稽だった。 これがわたしが主人公の物語だったなら、もっとわたし好みのシチュエーションであるべきだ。土まみれで告白なんて、わたしの知るおとぎ話には出てこないしわたしも求めていない。これじゃあまるでダイゴが主人公だ。自分の事を友人としか見てくれない相手に気持ちが抑えられずに告白をしてしまった、ダイゴの物語。 ああ、そっか、そうだったんだ。唐突に腑に落ちる。 「ダイゴは優しくてかっこいいよ」 ダイゴを見つめる。こうやってまっすぐ見つめるのは何だか随分久しぶりのような気がする。 「ダイゴがいい」 青く透き通る瞳が宝石のように輝く。それを煌めかせているのが自分だと思うと、今までの失恋も回り道も、この物語の主人公がダイゴであることも全部許せるような気がした。