仕事の連絡をしに行ったらなぜかデートの相談になっていた
チャンピオンは忙しい。リーグでふんぞり返って挑戦者を待っているだねと思われがちだけど、ポケモン勝負以外の業務で一日が終わる事も少なくない。むしろチャンピオンとしてバトルをする事の方が少なかった。 だからこそ、わたしは彼の部屋へ入室するのをためらっていた。今から彼に伝える業務もポケモン勝負とは無縁の、リーグ理事のご機嫌取りだった。孫娘の初めてのコンテストを見に行けだなんて、職権濫用でチャンピオンを振り回さないでほしい。 気の進まないままノックをして部屋へ入る。ダイゴさんは壁に掛けられた大きなモニターの前に立っていた。画面にはカゲツさんとダイゴさんが映っている。数日前に録画してほしいと頼まれた練習試合だ。 ポケモンが好きでポケモン勝負も大好きな人に、こんな『業務』をお願いするなんて頭が痛くなる。けれどダイゴさんは、 「うん、わかった。それで、同行するスタッフはもう決まってるのかな」 と、二つ返事で快く了承して。どこか楽しそうに尋ねる彼に、花束や差し入れの手配含めてわたしが任されてますと答えると、花が綻ぶように艶やかな笑顔が広がった。まるで同行者がわたしで喜んでくれているようだった。 「そのコンテスト、ミクリがエキシビションショーをするから行こうか迷っててね、ちょうど良かったよ」 思わぬ言葉に思わず驚きが顔に滲んでいたらしい。ダイゴさんが「ふふ、意外だったかい?」と笑ってモニターに向き直ると映像を巻き戻した。 「ここのエアームドの動きはコンテストで見たオオスバメを参考にしたんだ。コンテストって身体の動かし方はバトル以上に拘るから、案外良い刺激になるんだよ」 言われてみればステップを踏んでいるようにも見える。ちらりとダイゴさんを横目で窺うと、華麗に技をかわすエアームドに瞳を細め口角を上げている。コンテストは彼にとって時間の浪費だと決め付けていたけど、この様子なら意味のある時間になりそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。 「そういえばそのコンテストって午後からだよね。ミナモに美味しいサンドイッチを出すカフェがあるんだけど、そこでいいかな」 ダイゴさんがくるりとわたしの方へ顔を向ける。好意的な笑顔がわたしの目の前にある。けれどわたしは対照的に困惑した顔でダイゴさんを見つめ返す。誰か教えてほしい。仕事の話の最中にどうしてカフェやサンドイッチが出てくるんだろう。状況を飲み込めずほんのり眉間にしわを寄せて首を傾げた。 「何、って昼食の話だよ。そうだ、ちょうど今ミナモの美術館で珍しい鉱石の特別展示もやってるんだ。それも見に行こうか。綺麗な石も多いからきっと{{kanaName}}も退屈しないよ」 にこにこと笑うダイゴさんにますます混乱する。コンテストの観覧は一応れっきとした業務だ。なのにダイゴさんの口振りはまるで、 「デートみたい……」 頭の中の言葉が勝手に飛び出していた。慌てて口を塞ぐ。けれどわたしの独り言は誤魔化すには大きな声を出しすぎていた。ダイゴさんがアイスブルーの瞳をきょとんとさせる。 「あの、今のはっ」 「ボクはデートのつもりだけど」 にいっと笑う彼は、バトルコートで見応えのあるトレーナーと対峙した時のように頬を上気させ生き生きと瞳を輝かせていた。けれど次の瞬間にはいつもの人懐っこい穏やかな笑顔に戻る。 「だから、その日は試合以外の予定はもう入れないでくれるかい?」 頼んだよ。にっこりと笑うダイゴさんに流されるまま、わたしは何度も頷く。ダイゴさんの後ろのモニターでは、見事に勝利を収めたチャンピオンがカメラに向かって珍しくピースサインを作っていた。