辛くて落ち込む夢主をダイゴが訪ねる
――ああ、もう、本当に嫌にやる。 自宅に帰るなり明かりも点けずにベッドへ倒れ込んだ。そのまましばらく暗闇をぼんやり瞳に映していると徐々に寝室の輪郭が浮かび上がってくる。けれどそれと同時に余計な事まで頭に浮かんで全身がひどく重い。 ぎゅっと目を瞑る。再び暗闇に包まれる。それでも一度浮かんだそれらは消えてくれない。 ――しんどいなあ。 体と一緒にベッドへ放り出した鞄から着信音が聞こえてくる。のろのろと手を伸ばし引っ張り出すとダイゴさんからのメッセージだった。内容は他愛のないもので、わたしは返事をする前にポケナビをベッドに落として目を閉じた。 けれどそういう時に限って勘が鋭いというか鼻が利くというのか、何かを感じたらしいダイゴさんが家を訪ねてくる。煩わしくてチャイムを無視するけれど、少し前に聞こえた独特な羽ばたきは彼のエアームドに違いなかった。 数度目のチャイムが暗闇に鳴り響き、そしてガチャリと鍵を開ける音がして遠慮がちに扉が開く。ダイゴさんに合鍵を渡していたのを失念していた。呻き声みたいな溜め息が漏れる。 玄関からダイゴさんのわたしの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。それは段々と近付いて、一度通り過ぎ、再びこちらへと迫ってくる。 そうして、半ば確信めいた手つきでドアが開けられる。廊下の明かりが部屋に差し込んで眩しい。目を細めていると「{{kanaName}}」部屋に足を踏み入れたダイゴさんに声を掛けられた。とっさに顔を背け枕へ埋める。 ぱちりと音がして部屋に明かりが灯される。ずいぶんひどい姿を晒している自覚はあったけれど体も心も重くて動けない。 「電気も点けないでどうしたんだい?」 ダイゴさんがベッドの縁に腰を掛けた。マットレスが沈み込む。 「ほら、スーツに皺が付いてしまうよ」 わたしより大きくて力強さを持った手の平がそっと頭を撫でた。じわりと伝わってくる温もりに、無性に涙が込み上げてくる。どうにか堪え、振り払うように首を振るけれどダイゴさんは撫でるのをやめない。 「ねえ{{kanaName}}、どこか旅行に行かないかい?」 いきなり何を言い出すんだろう。わたしは枕に伏せたまま眉をひそめる。けれどダイゴさんはわたしの態度に気付いていないのか、そのまま言葉を続ける。 「近場でもいいけど、遠くでもいいんじゃないかな。例えばそうだな……イッシュもいいし、ガラルも楽しそうだよ」 そう言ってダイゴさんが語り出したのは案の定山や洞窟の話で、一切興味がないとは言わないけれど石マニアでもなければ飛び付く内容でもない。わたしは楽しげな声に耳を傾けながら小さく息を吐いた。 「他には…、そう、カロスもいいかな。ほら、前にきみも言ってたじゃないか、あれが食べたいって……、えっと、マフィンじゃなくて、ポフィン、いや違うな……」 「……ミアレガレット?」 枕に埋めていた顔を上げ、ダイゴさんの方を向く。ダイゴさんがぱっと明るい顔をして笑った。透き通るブルーがわたしに柔らかな眼差しを返す。 「そうそう、ミアレガレットだ。どうだろう?」 「どう、って」 「美味しいものを食べて楽しい事をしようって事だよ。いいじゃないか、たまにはそんな日があったってさ」 ね、と片目を瞑ってウインクを決めるダイゴさんは何故だか少し得意げに笑っている。そしてまた返事も聞かずにカロスで採れる石の話を始めてしまう。そんな彼に、思わず大きな溜め息が零れた。同時に肩から力も抜けてゆく。 「楽しそう。それもいいかもね」 「ふふ、そうだろう?」 眉をわずかに下げてダイゴさんが笑う。その手が濡れた頬に触れる。 「でもそうだね、今日は何も考えずに寝たらいいよ」 促されるように目を閉じる。眼前に広がる暗闇はもう何も怖くなかった。