水面に煌めくアルタイル

ミクリの七夕水上ショーに手伝いとして呼ばれる

 いつ開催するか分からない、ミクリさんの気まぐれ水上ショーはそれでも毎回すぐに席は埋まってしまう。特別な日でも何でもない平日でさえそうだから、今日みたいな日は一瞬で空席はなくなっていた。
 そんな七夕の水上ショーは七夕伝説になぞらえて二匹のラブカスが中心の特別なショーだった。
 プールを二分するような氷の筋はミロカロスが吐息を吐くような囁かな動きで生み出した天の川。その上でクルクルとリズムを刻むルンパッパの放つギガドレインが氷の天の川を煌めかせ、サメハダーのアクアジェットで起こる沢山の波に当たって会場いっぱいに光が飛んでゆく。そこへスターミーのシグナルビームも加わって、まだ日も高いのにここだけ満点の星空のようだった。
 今日の主役はラブカスだから、とステージ後方でひっそりと佇むミクリさんは宣言通りとても静かにポケモン達に指示を出していた。
 ミクリさんのような一流の人間は存在感すら自由に出来るようで、指の先まで美しさを纏って演技をしているのに主役の二匹を食ってしまうような事は決してなかった。
 そんな素敵なステージを舞台袖から覗いて、ほっと安堵の息をついた。
 急にスタッフが一人来れなくなったから手伝ってほしいとミクリさんにお願いされた時はわたしなんかで大丈夫かと不安だったけれどショーは順調に進んでいる。手伝いというのも舞台から戻ってくるポケモン達のフォローで、舞台慣れした彼らには特に必要のない人員だった。
 そのお陰でわたしはこうしてずっとステージを覗いて、観客席からは見れないショーの姿を見つめている。
 ぽちゃん、水の跳ねる音がした。出番を終えたミロカロスが舞台のプールから伸びる水路を通って戻ってきていた。
 頑張ったねと声を掛けると、ぱしゃんと大きく水を撒き散らして水路から飛び出し濡れてツヤツヤ光る身体をわたしへと巻き付けてきた。存外強い力で巻き付かれてしまい、力尽くで引き剥がそうとしてこの子がミクリさんのミロカロスであることを思い出す。怪我でも負わせたら大変だ、少し加減をしてミロカロスの身体を押した。
「まったく、一体何をしてるんだい」
 囁くような、抑えた声が舞台袖に響く。梃子でも動かないと言わんばかりに身を固くしていたミロカロスがつるりと離れてゆく。
「ミロカロスと遊ぶのも構わないがショーはちゃんと見てくれているね? 来年は{{kanaName}}もステージの上なんだ、分かったね」
「えっ」
 ごきゅ、と喉を鳴らして水分補給を済ませたミクリさんが少し乱暴に口を拭って眉間に皺を寄せながら言う。そして困惑したわたしを置いて、会場に流れる音楽に合わせて再び光の煌めくステージへと戻ってゆく。
 来年? わたしも? そんなの今初めて聞かされたのにミクリさんの中では確定事項のようで、何が何だか分からない。
 助けを求めるようにミロカロスを見るとしかし、彼もまた次の出番に向けてステージへと向かってしまった。置いてけぼりのわたしだけが理解出来ずにいる。
 ちらりとステージを覗けばそこには観客の様々な眼差しを一身に受けてなお輝くミクリさんとポケモン達が華麗に舞っている。
 ああきっと、あの場に立てば同じような厳しい視線を向けられ、過度な期待に震え、期待外れだと重い溜息をぶつけられるんだろう。
 でも、もしそんな冷ややかな観客をすべて満足させることが出来たなら。ぞくりと背筋が震える。ミクリさんとなら出来るかもしれない。かも、なんかじゃない。ミクリさんの隣でなら出来る。ミクリさんとでなければ出来ない。
 次のステージまであと一年、今から入念に準備をすれば織姫達はきっと今日よりも素敵な逢瀬を果たすだろう。わたしはステージ上で愛を語らうラブカス達をしっかりと目に焼き付け一人静かに口角を上げた。