優位簒奪

寝込みを襲ってきたミクリと煮え切らない態度に攻める夢主

 目を覚ますとわたしはソファに横になっていた。体を起こして明かりの消えた真っ暗な部屋に目を凝らす。広いリビングにはわたしと同じように酔って寝落ちした姿がいくつか見えた。ローテーブルの向こうに一人、ソファの肘掛にもたれ掛かる姿が一つ、ぼんやりと認識できる体躯はどれもすっかり寝入っている。
 今日はリーグ定例会議があり、その後飲み会が開かれるのが恒例となっていた。遠くのジムスタッフと顔を合わせられる良い機会なのでわたしも参加したら、何故か今日はムロジムのトウキさんに気に入られて「キミも一緒に来なよ!」とミクリさんの家で飲み直す面子に加えられていた。
 ミクリさんはわたしの働くルネジムのジムリーダーでわたしの想い人だけど家にお邪魔した事はもちろん、個人的に食事をした事もない。そんなわたしが仲間に加わっていいのか迷うのは当然で、だから遠慮したのにミクリさんにまで「君も来たらいい」と言われてしまいビクビクしながら家へと招かれた。
 そうして錚々たる顔ぶれの中で普段よりうんと高級なワインやら何やらを勧められるまま飲んだわたしは、いつの間にか意識を失っていたようだ。
 今何時だろう、じんわりと暗闇に慣れた目で自分の鞄を探す。
 と、部屋の外から足音が聞こえ、ゆっくりとドアが開いた。わたしは慌ててソファに寝転がってぎゅっと目を瞑る。理由は特にないけれど、何となくこの暗闇の中起きているのがバレてはいけない気がした。
 部屋に入ってきた誰かは息を潜め足音を立てないよう慎重に歩いている。そしてわたしの眠るソファまでやって来ると、狸寝入りするわたしにブランケットを掛けた。

「やれやれ、危なかっしい子だね」

 ふう、とため息を吐いたのはミクリさんだった。ミクリさんがわたしの頭をそっと撫でる。そして、柔らかい何かが唇に触れた。唇だった。
 ミクリさんの行為を理解した瞬間、心臓が爆発したかのようにドクドクと加速して狸寝入りもすっかり忘れてぱちりと目が見開かれる。暗闇に慣れた瞳が目の前のエメラルドグリーンの双眸を見つける。ミクリさんは焦った様子も見せず穏やかに目を細めた。

「こんな所で寝たら風邪を引いてしまうよ。私のベッドが空いてるから使いなさい」

 今にも二度目のキスが降ってきそうな距離でミクリさんが言う。熱い吐息が鼻に掛かる。

「ミクリさん、は」
「{{kanaName}}がベッドを使うなら、私はここで寝るよ」
「そ、そんなの…、ミクリさんのベッドだから、ミクリさんも寝てください」

 エメラルドグリーンの瞳が一瞬大きくなって、すぐに困ったように眉を下げる。寝ているわたしにキスをしたくせに、ミクリさんはわたしに手を出す気はなさそうに見えた。

「私は火遊びはしない主義なんだ」

 だったら今のキスは何なんだろう。寝ているわたしへのキスにどんな意味があるんだろう。誘う合図ではないのなら、そこに込められた意味は一体。

「じゃあ…、本気にして」
「えっ、」
「わたしのこと、本気にしてください」

 大事なことだから、声は潜めながらもはっきりと発音した。ミクリさんの視線が不規則に揺れる。けれど観念したようにわたしを見下ろし首を傾げる。

「今日は皆がいるから一緒に寝るだけだよ」

 おいで、ミクリさんが手を差し出す。わたしはその手を取って立ち上がると、ソファに持たれて寝入ったトウキさんに感謝を込めてそっとブランケットを掛けた。