ホウエン出張から帰ってきた夢主が必死に土産話をギーマに話す。その思惑に気付いたギーマだったが知らぬ存ぜずを通していると…… ※ギーマ視点夢
「――って事があって、ギーマさんにも見せたかったです」 先程から息付く間もなくマシンガントークを繰り広げるわたしの恋人{{kanaName}}は、何かを確認するようにわたしの顔をじっと覗き込んでは次の話題へ移る。そのせいだろう、いつもなら二人で寛ぐ時間は多くは語らず身を寄せる事が多いのに、今日はわたしから少し距離を取ってソファの端に腰を下ろしている。絡め合う腕も今は手持ち無沙汰そうにクッションを抱きしめ、ぷらぷらと揺れる足もどこか退屈そうだ。明らかに様子の違う{{kanaName}}に、しかし特に言及もせず土産話に耳を傾ける。つい先日までホウエン地方に出張だった彼女の話は興味を引くものが多かったから、というのは体のいい言い訳だろうか。 「ワンワンッ」 リビングの端から灰色の塊が駆けて来る。それはソファまでやって来ると後ろ足で立ち上がって{{kanaName}}の膝に前足をついて大きく尻尾を振っている。{{kanaName}}がソファに置いてあったボールを投げると大きく鳴いて追い掛け、取ってくると彼女に渡してまた投げてもらうが、今度は戻って来なかった。 ボールはわたしのレパルダスに横取りされ、廊下の方へと転がされていた。ポチエナがつるりと滑るフローリングの上で器用に方向を変えて廊下へ走る。レパルダスもゆっくりとした動きでその後を追い掛けた。リビングに奇妙な緊張の漂う静寂が訪れる。 視線を感じ隣を見れば{{kanaName}}がじっとこちらを見上げている。けれどすぐに視線は逸らされ、何度も組み直される手元へと落ちてゆく。そしてまたぽつりぽつりと口を開く。 「あのポチエナ、最初は捕まえるつもりがなくて…、でもあくタイプの中でも育てやすいってカゲツさんが言ってくれて…、」 カゲツとは、今日の彼女の口から何度も呼ばれる名前だ。これで何度目だろう、話題を変えても出てくる名前は呼べば呼ぶほど力強くなっていく。あまりに強調するものだから、彼女の思惑は何の駆け引きにもなっていない。 ちらり、わたしの様子を窺う瞳はしかしすぐに伏せられる。一切の反応もしないわたしに顔が険しくなる。けれどまだ諦めてはいないようで、わずかに尖った唇がもう一度男の名前を紡ぐ。 「カゲツさんはすごく良い人で、私にポチエナの事を色々教えてくれて……、それに…、ごっ、ご飯も誘ってくれ、て……」 再び目が合う。その瞳はまるで神に縋るように必死だった。何を考えているのか手に取るように分かる豊かな表情に、わたしは微笑みを返す。それは今日彼女が家を訪れた時から見せている表情で、彼女がどんな話をしても崩さなかった笑顔だった。 {{kanaName}}の眉間にはいよいよ深いしわが刻まれ、口もぎゅっと固く結ばれ、鋭い瞳がわたしを睨み付けた。 「ギ、ギーマさんはっ…、私が男の人と仲良くしてても平気なんですね!」 ギロリ、恋人に向けるにはあまり褒められない視線がわたしを刺す。どうやらわたしの態度が気に入らないらしい。無論、そんな事は百も承知の上で微笑み続けているのだが。 「……ギーマさんのいじわる」 ふんっ、と鼻を鳴らしてそっぽを向いて、{{kanaName}}が全身を使って不満を露にする。やれやれ、困ったレディだ。 「{{kanaName}}、」 愛しい恋人の名前を呼ぶ。隣の肩が大袈裟に跳ねて数秒、険しい視線がのろのろと戻ってくる。つぶらな瞳に少しの気まずさが見えるのは自身の言い分がいささか我儘だと感じているからだろう。 そんな彼女の眼差しを受け止めもう一度名前を呼ぶ。祈るように組まれた両手を握ると{{kanaName}}の表情が少し和らいだ。わたしが拗ねる彼女に折れてしまうように{{kanaName}}もまた惚れた弱みでいつまでも怒りを留めてはおけないのだ。 「きみは本当にわたしが平気だと?」 驚いて見開かれた瞳がぱちぱちと瞬きを繰り返す。わたしの言葉を理解すると次第に頬が緩んでいき、にわかに頬が赤く染まってゆく。ころころと表情の変わる様にこちらの頬も思わず緩みそうになる。 「見えるものばかり信じるのは感心しないぜ、勝負師しとしても…、恋人としても」 「あっ、えっと、その…っ、ご、ごめ」 詫びの言葉を最後まで聞く事はなかった。残りの文字は塞がれ奪い取られ熱い吐息へと形を変えていく。そのまま{{kanaName}}の腰へ腕を回して身体を引き寄せた。とくんとくん、寄り掛かる彼女の駆け足な鼓動が肌から伝わってくる。 「でも、時々はヤキモチ焼いてるギーマさんも見たいです」 ちらり、向けられた視線は先程と打って変わってとても甘い。ピリピリとした空気もいつの間にか普段のそれへと戻っている。わたしは{{kanaName}}の視線を真っ直ぐに受け止め頬を緩める。 「フッ…、それは只では叶えてやれない望みというものさ」