初めて好きになった相手であるギーマへチョコを渡しに行く(バレンタイン夢) ※ワーパレお借りしました→@torinawx
バレンタイン、それは恋する乙女が気持ちの籠ったチョコレートを好きな人へ贈る日。かく言う私の手にもチョコレートの入った袋が握られている。 この日の為に用意したのはカロスの超一流ショコラティエの限定チョコレート、高級感に溢れ、その見た目に相応しい値段のする逸品だ。去年までの自分が今の私を見たら『わざわざ馬鹿高いのを買ってまで告白するなんて馬鹿げてる』と鼻で笑うに違いない。なんたって私はそれまでろくに恋もした事がなかったのだから。 そんな私がチョコレートを渡したい相手はギーマさん。そう、あのギーマさんだ。 我ながらなんとハードルの高い初恋だろうと呆れている。でも、彼の勝負への真剣な眼差しが、ポケモンへ真摯に向き合う姿が、私の胸を撃ち抜いて離れない。ふとした時にギーマさんを思い出して、何かある度にギーマさんの事を考えて、恋をすると世界が変わるとはこういう事かと何度も胸を時めかせた。 初めての恋に気付いてからしばらくは、自分がギーマさんを好きでいればそれだけで良かった。それだけで世界がより鮮やかで楽しくて幸せだった。 けれどある時友人に「それでいいの?」と問われた。遠くから眺めている間に他の誰かに取られちゃってもいいの、と。 その時初めて、自分の恋の行く末を考えた。答えはすぐに出た。一方通行の恋だけじゃ嫌だ。私がギーマさんを好きであるように、ギーマさんにも私の事を好きになってほしい。 それから私は少しでもギーマさんに好きになってもらおうと自分磨きに励み、少しでもカレの印象に残ろうと積極的に関わりを持った。おかげで単なるリーグ職員でもギーマさんに名前を覚えてもらい、気軽に声を掛けてもらえる立場を手に入れた。 そうして迎えた今日、身だしなみはバッチリ、とびきりのチョコレートもいつでも渡せる。告白の言葉もちゃんと考えてある。準備は万全だ。 でも、ここからがとてもとても大変だ。何せ相手はあのギーマさん、勝負して勝たなきゃ受け取って貰えまい。だから何としても勝たなくちゃいけない。告白すら出来ないなんて絶対に避けなくちゃ。その為なら何度でもどんな勝負だって受けて立つつもりだ。 「おや、そんなに身構えてどうしたかな」 挑戦者と一勝負終えたギーマさんが部屋から出てくる。にいっと口角が上がっているのを見るに、充実した勝負だったんだろう。機嫌の良い今なら簡単な勝負でも受けるに違いない。 ここがチャンスだ、コイントスでさらっと勝ってチョコレートを渡そう。胸の中に吸い込んだ息をふんっと吐き出して「あのっ!」ギーマさんの前に立ちはだかった。 「チョコレート受け取ってください!」 「ああ、受け取ろう」 「ですよね分かってます。勝負しなきゃ受け取っ……、え?」 ポケットの中からコインを取り出して、けれどその体勢で固まった私の頭上に?マークが浮かび上がる。 聞き間違い? 今ギーマさん、受け取るって言わなかった? ぱちぱちと瞬きを繰り返し、訝しむように眉根を寄せる。素直に信じられない。そんな私をギーマさんはにやりと笑う。 「何かおかしい事でもあったかな」 「えっ、いや、だって、しょ、勝負は……」 「全ての選択を勝負で決めていたら時間がいくらあっても足りないぜ。それに今はきみもわたしも同じ方に賭ける事になってそもそも勝負が成立しないのだよ」 くくっと不敵に微笑むギーマさん。私が混乱して固まってるのも気にもせずチョコレートを奪い取っていく。思っていた告白と全然違う。あ、そうだ、告白。 「あの私」 「ではわたしからも」 ギーマさんが意味深に目を合わせてゆっくりと瞬く。それだけでぶわりと顔が熱くなって目を合わせていられない。さっ、と視線を逸らしたら今度はそっと私の手を取って何かを握らされた。紙袋だった。中に入っていたのは。 「チョコ、レートだ……」 見たものをそのまま口にしたものの、信じられない。あまりにも予想外の事が、私にばかり都合の良い事が起こりすぎている。告白は確認作業とは言うけれど、それにしたって何もしていないのだから。 「じゃ、じゃあ私……、ギーマさんの彼女に、なれるんです、か……?」 チョコレートに釘付けになっていた視線を目の前の彼へ向ける。言ってから、これが一応告白の言葉になるんだと気づいて心臓が一層大きな音で激しく鼓動をかき鳴らす。 ギーマさんは掴み所のない妖しい笑みを浮かべ、そして勿体ぶるようにゆっくりと口を開いて、「さあ」と肩を竦めた。えっ? 「生憎わたしは現状で満足しているのでね。もしきみが付き合いたいのなら、一つ勝負をしようじゃないか」 一月後の今日までにわたしをその気にさせてみたまえ。それが出来たらきみの勝ちだ──ギーマさんはそう言うと「チョコレート、ありがとう」と軽く手を振って行ってしまう。その背中は遠い。 何、その勝負。呆然と背中を見つめる。何が何だか分からない。 でも、この勝負は絶対に勝たなきゃならない。それだけは明白だ。私は赤い頬をペチンと叩いて気合いを入れると「待ってください!」愛しい背中を追いかけた。