自分が恋人でいいのか不安な夢主と、夢主が好きなワタル
わたしは焦っていた。お世辞にも美人とは言えない容姿に特に秀でた特技を持っている訳でもない。そんなわたしがあのワタルさんの恋人の座に収まってしまったのだ、焦らない方がおかしかった。 今日は初めてワタルさんの家に行く。何か一つでもいいところを見せたい。おれの彼女は気が利くな等、そんな程度でいい。ワタルさんがそんな事を気にするとは思わないけれど、それでもわたしと付き合うことに価値を感じてほしい。でないと平凡なわたしはワタルさんとの格の差にいたたまれなくなってしまう。 けれどワタルさんはどこまでも出来た人間だった。綺麗に整えられた玄関に始まり、どの部屋も掃除が行き届いている。トイレを借りた時にちらりと覗いた浴室も、鏡までぴかぴかに磨かれている程掃除されていた。 ならば手料理だと夕食の準備を手伝うと申し出たら既にほとんど作り終わっていて、アピールする場は何処にもなかった。そして盛り付けこそ少し乱雑になっていたけれど味は文句なしで胃袋を掴む事も難しそうで。ワタルさんの生活にわたしの存在を差し込む隙はどこにも見当たらなかった。 残るは女性として――端的に言えば性欲の吐き出し口として有能たらんと意気込んだけれど、わたしは今玄関口に立っていて、美脚に見えると店員におだてられて買ったヒールを履いている。そう、ワタルさんは日付の変わる前にわたしを家へ帰そうとしているのだ。お家デートはこれが初めてとはいえ、こうもあっさりと帰されるとむしろ不安になってくる。この人にわたしという存在はどう必要なんだろうと悩まずにはいられない。 「えっと…、じゃあ、また連絡します」 ドアを開けるとびゅうっと風が吹いて、広く開いた首元がひどく寒い。そろそろマフラーが必要かもしれない。 「{{kanaName}}、」 名前を呼ばれたと思ったら背後から何故かワタルさんに抱きしめられていた。頭が理解した瞬間、全身が沸騰したように熱くなって足の力が抜けそうになる。それでも何とか踏ん張っているとワタルさんはしばらくそのままわたしを抱きしめ、そして耳元に顔を寄せ、 「こんな服じゃ風邪を引いてしまうだろう」 「ひゃ、あっ…!」 柔らかい感触と鋭い何かが首元に当たったかと思ったら刺すような痛みが走った。ワタルさんが、首筋を噛んでいた。 「おれのだが、ないよりはましだろう」 体が離れ、ぐるぐると首に何かが巻かれる。ワタルさんは離れた筈なのにワタルさんの匂いがわたしを包み込んでいる。マフラーからワタルさんを感じた。 振り返るとワタルさんが真っ黒な瞳でわたしを見下ろしていた。品行方正で真面目な瞳が、今しがた付けた痕から目を逸らすようにわたしを見下ろしている。 「夜道には気を付けてくれ」 ばたんとドアが閉まる。わたしが彼の役に立つのかも必要とされているのかも分からない。 けれど一つだけ、確かな事が分かった――わたしは間違いなく彼のものだった。